骨太な作品だった。テクノロジー、人間心理、言語、文化人類学など様々な要素が盛り込まれており、常に神経を張り巡らせて読むような印象を受けた。しかし、少し冗長な気もする。自分の知識不足もあるが。
アメリカの暗殺部隊に所属するクラヴィスは、往く先々で虐殺を引き起こすというジョン・ポールを幾度となく殺しあぐねていた。
ターゲットの暗殺過程において、途上国の子供を殺しても感情が揺らぎ、逡巡したりしないように「調整」され、またテクノロジーによって痛みを感じない様に施され、ただ暗殺命令を忠実に遂行するクラヴィス。
しかし、事故にあった母の生命維持装置の停止決定、同僚の自殺を経て「意思の所在」「罪の所在」に悩むようになる。己に、多数の命を奪った罪を負えるような器は無いのではないか。 誰か己を罰して欲しい。
虐殺器官とは、言語の研究をしていたジョン・ポールが発見した、虐殺が起こる前の人々が話すものに共通する文法のことだが、クラヴィスはこのエディターの存在を他の人に知らせていないのだろうか?
虐殺器官について詳しく記述されていないが、自分はその方がいいと思った。何故なら、かつてジョン・ポールが途上国にそうしたように、クラヴィス1人が淡々とアメリカを虐殺の渦に巻き込み、クラヴィスだけが具体的方法を取って操れる状況というものを表現していると思えてならないからだ。そこに読者への具体的な「虐殺器官」の扱い方に関する説明は必要ない。何故か分からないが混乱に陥る様、というのが不気味な印象を与えているのだと思う。
ところで、クラヴィスの名前が裏表紙以外では本文の後になってから出てくるのだが、これには理由があるのだろうか?
- 感想投稿日 : 2019年11月30日
- 読了日 : 2019年11月30日
- 本棚登録日 : 2019年11月30日
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