カウンセラー 完全版 (角川文庫 ま 26-32)

著者 :
  • 角川グループパブリッシング (2008年7月25日発売)
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感想 : 27
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晴れやかな授賞式の舞台。
音楽教師としての実績を評価された響野由佳里は、文部科学省からその功績を称えられ表彰されることになった。
音楽に対して類稀なる才能を持つ由佳里は、演奏を聴くだけで演者の精神状態を見透かすことができた。
独自の信念に基づいた教育方針が認められたことで、由佳里にとってはまさに晴れ舞台となった授賞式だったのだが。
些細なことから父親と口論となった由佳里は、家族との会食の場を途中で抜け出してしまう。
別れた直後、家族が惨劇に遭うとも知らずに。
由佳里の家族を殺害した13歳の少年の態度には納得できないものがあったけれど、もしかしたらあんなものかもしれない…という気もどこかでしていた。
有り得ないことではないと、どこかで認めてしまっていた。
でも、少年の母親の言動にはどうにも我慢がならなかった。
「もしかして、この母親の方が頭がおかしいのでは?」と思ってしまった。
少年は日常的に母親の財布から現金を盗んでいた。
窃盗罪で捕まらないかと心配する母親に、「あんた何言ってんの!」と言いたくなる。
見知らぬ家族、子供も含め4人もの人間を殺害した息子なのに。
謝って済むことじゃないだろうと、この母親は馬鹿なのかと。
こんな親はいないだろうと思う反面、現実はこんなものかもしれないと思っている部分もある。
嵯峨のように対象者に寄りそうカウンセラーばかりではないとは思う。
自分では気付けない「歪み」は直しようがない。
自分はまともだと、正常だからカウンセラーは必要ないと、そう思っている人の中にもきっと「歪み」を抱えている人は多いはずだ。
ストレスを感じやすい社会だと思う。
人間関係の難しさや、理不尽な処遇に甘んじなければならない状況も、きっとたくさんある。
それでも、壊れていくのは嫌だ。
何かのきっかけで誰にでも起こり得ることなら、出来れば一生縁のない生活を送りたい。
カウンセリングの必要性を描きつつ、サスペンスとしての構成・展開、そして結末に至るまでが緊迫感にあふれていてハラハラしながら読み進んだ物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サスペンス
感想投稿日 : 2017年3月5日
読了日 : 2017年3月5日
本棚登録日 : 2017年3月5日

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