スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2010年1月15日発売)
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上下巻を読んでの感想
傍に置いていつでも手に取れるようにしておきたい物語がある。
「スロウハイツの神様」は私にとってはそんな1冊だ。
いつまでも手元に置いて何かあると開いてみる特別な1冊だ。
第一章で語られる赤羽環は強い人だ。
彼女なりのきちんとした「美学」がありけっしてそれを崩そうとはしない。
「スロウハイツ」の住人たちは、環の「美学」に合格した人たちばかりである。
環には迷いがないように周囲からは見える。
繊細で傷つきやすいところも、弱いところも、すべてを自力で抑え込んでスッと立っている。
環が別れた元恋人を何故「スロウハイツ」に誘わなかったのか?と聞かれたときの答えがいい。
たとえ元恋人だろうと容赦なく分析しているところが、いかにも環らしい。
「美学」に反していても恋人ならば許せる。
けれど、同居人や友だちには対しては一切妥協はしない。
環の中では恋人が占める比重はごく軽いものだったのだろうと思ってしまった。
下巻の最後まで読み終えたとき、どうしようもない切なさがわきあがってきた。
公輝はなんて素敵な人なんだろう。
そして、なんて哀しい人なんだろう。
環を公輝をめぐる人たち。
彼らの生きている姿が、前に進もうとあがいたり悩んだりする姿が、どうにもならないこともあるのだと受け入れる姿がとても好きだ。
人の価値は見た目ではわからない。
近くにいてもなかなかその本質的なものは見えないし、どんな人なのかなんてわからないことが多いだろう。
大人になればなるほど、自分を隠すことが上手になる。
相手の望む自分・・・無意識にでも意識的にでも・・・になろうとしているときがある。
本当はちょっと不愉快なときでも、無邪気さを装って笑ってその場を凌いだりする。
環のようには生きられない。
傷つくことを誰よりも怖れながら、傷ついてもかまわないと思える強さなんて持てないから。
だからこそ、この物語は手放せない。
ときどきは環や公輝に会って、言い訳好きな自分を環目線で見つめたくなるから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2017年3月3日
読了日 : 2017年3月3日
本棚登録日 : 2017年3月3日

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