蜩ノ記 (祥伝社文庫)

著者 :
  • 祥伝社 (2013年11月8日発売)
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本棚登録 : 3497
感想 : 348
4

珍しく時代小説を読んでみた。
主命により切腹の日を決められている秋谷は静かに家譜編纂をしながら日々を暮らしている。
毎日が死へのカウントダウンであり、そもそも切腹しなければならない理由にも理不尽なものがある。
遺していかなければならない家族もいる。
無念さは感じないのだろうか?悔しくはないのだろうか?
読み始めたときにはあまりにも達観しているような秋谷に違和感を感じた。
取るに足らないような地方の村にも生活をしている人たちがいる。
年貢をめぐり、さまざまな問題も起きていく。
侍(搾取する側)と百姓(搾取される側)では立場も違う。
けれど、少しでも相手のことを思いやる気持ちがあれば…。
いや、きっと時代背景を考えると侍が百姓を思いやる意識などなかっただろう。
ならば有能な役人として効率的な仕事をすればいい。
保身だけを考えるのではなく、百姓からいかに多くの年貢をトラブルなく集めるか。
そこだけを考えればいいのに、と思ってしまった。
子供にまで威張り散らすような輩にはプライドがないのだろう。
彼らの保身に染まった行いは、対比としてより一層秋谷の静謐さを際立たせている。
すべてを受け入れて静かに真っ直ぐに残された人生を生きていく。
間近でそんな秋谷の生き方を見守ってきた庄三郎もまた、彼の影響を受け変わっていく。
秋谷の思いは庄三郎に、そして郁太郎に引き継がれていく。
終盤の家老が語る秋谷の心境部分はいるだろうか。
たしかに腑に落ちるものもあり、読み手には親切かもしれない。
だがとってつけたような説明はそれまでの物語に流れてきた空気とあきらかに違うような気がするのだけれど…。
時代小説はほとんど読んだことがない。
だからかもしれないが、物語の世界にどっぷりとつかりながら読むことができた。
秋谷という人物の凛とした生き方に心洗われるような物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2017年3月25日
読了日 : 2017年3月25日
本棚登録日 : 2017年3月25日

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