サーブだけでウィンブルドンで優勝してしまう日本人プレーヤー、杉本宇宙の物語です。
「サーブだけで」というのは誇張ではありません。宇宙は文字通りサーブしか打てないのです。ストロークもボレーも何もできないので、リターン・ゲームは必ず落とします(というか、ラケットを振りさえしません)。しかし、サーブは超人的なので、自分のサービス・ゲームは必ず勝ちます。
この奇妙奇天烈な設定で何が起こるでしょうか? 対戦相手は剛球サーブを受けて気絶もしくは負傷でリタイアするか、ゲームカウント6−6まで行ったあとのタイブレークでダブルフォールトを犯して負けるか、戦意喪失してリタイアするか、作者の都合によりいずれかのパターンで宇宙に敗れるのです。 実にそれだけのドタバタ・コメディーです。
テニスクラブの片隅でサーブの練習だけしていた少年が、デビスカップ日本チームの目にとまり、ジャパンオープンの予選にワイルドカード(主催者推薦)で出場して優勝し、それで出場権を得たウィンブルドンでも優勝してしまいます。うっかり読み飛ばしていなければ、宇宙はキャリア通算14試合でウィンブルドンを制覇しています。
サーブだけの試合が単調なように物語も単調です。単調ではありますが、そこそこ面白いです。本戦に出場さえできないのが日本の男子テニスの現実ですから、並み居る強豪を粉砕して優勝というのは痛快でもあります。
私が読んだのは文庫版ですが、親本の出版は1986年。この物語のなかで宇宙が破った外国人テニス選手は以下の通り。往時の空気が漂ってきます。きませんか? 書き写していても恥ずかしくなりますが(笑)、これがこの作品の味です。こういうのが嫌いでない人はそれなりに楽しめると思います。
キニセント・パン・バター
アンリマ・ポコント
サミー・ジアマリバッカ
エンドレス・ゴメンス
マッツ・ニランデル
ソレーワ・イエルリード
ヤニクイ・ノラ
パット・イズ・キャッシュ
ジミー・コナクソーズ
イワン・イチドル
ジョン・マッケンゾー
- 感想投稿日 : 2013年2月22日
- 読了日 : 2013年2月22日
- 本棚登録日 : 2013年2月22日
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