旅猫物語は、年に1回猫の王様にお目通りが叶う各街の代表の旅猫たちの
旅立ちから帰還までを描いた3部作である。
各巻が2008年11月、2009年5月、2009年11月と半年ごとに出版され、
約1年で完結した。
『旅猫物語1:いざ、猫ケ嶽へ』は、
それぞれの猫が故郷を旅立って、途中縁あって合流し、
王様にお目通りするまでである。
『旅猫物語2:インゲ、封印を解く』は、
帰還の途中に立ち寄った白姫山の出来事を描いている。
『旅猫物語3:そして、ふるさとへ』は、
猫ケ嶽に行く途中で世話になった「ねこばあさん」に
危機が迫っていることを知り、駆けつけた先で起こった出来事と
それぞれの旅猫のふるさとへの帰還の物語である。
この物語に登場する旅猫は5匹いる。
インゲ、クルリ、リセ、レラ、ツクモ。
それぞれが個性と課題を持った猫たちで、
旅を通して大きく成長して戻ってくる。
本書を私に紹介してくれた友人は、親子で本書を楽しみ、
それぞれお気に入り猫がいる。
紹介してくれたときに、どの猫が気に入るかなぁと言って紹介してくれた。
おかげで、どの猫かなぁと思って読んだのがとても楽しかった。
どの猫も個性が素敵で回答に迷ったのだが、迷った末に一匹を選んだ。
友人は、私の答えを予測していて、やっぱりその猫に似ていると思ったと言われた。
ちょっと嬉しい気がした。
こんな楽しみ方もおもしろいと思う。
さて、それぞれの猫の個性についてじっくりと考察してみたい大人児童書読みなのであるが、
自分は分析好きのため、ついつい書きすぎてしまいそうだ。
旅猫それぞれに生きてきた物語があり、旅を終えてからも物語がある。
好きな猫の過去から未来までいろいろ想像してみたくもなるが、
あんまりやりすぎて、これから本シリーズを読む人の関心をそいではいけないので、
主人公・インゲについてだけ少し書いてみたいと思う。
インゲという名前を最初に聞いた時、私は女性かと思ってしまった。
それは、この名がスウェーデン人の女性に多いからである。
だが、このインゲはオスだ。
インゲは、夕星町(ゆうずつまち)出身で、
夏生まれの「カマド猫」と呼ばれる猫である。
「カマド猫」は、寒がりで、じょうぶではなく、
冬を乗り切るには、織火をかき出したあとの
あったかいかまどの中で眠ったりするため、毛がうす汚れて見える。
そのため、「かまど猫」は、差別的な言葉なのだ。
そこに込められてしまった意味がわからなければ、
別に差別語だとは思わない、ただその場所にいることを表していると思われる言葉。
だが、言う方も差別を込めて放ち、受け取る方もそれを恥じて受け取れば、
それはとたんに「差別語」だ。
インゲは、自分が「カマド猫」ということばかりではなく、
ある不思議な現象についてそれを恥じていて、自信がなかったのだ。
その力とは、瞳の色が青く変わること。
それは、自分の感情が強く反応した時に起こる。
その時に起こる強大な力は、自分でもコントロールできない。
これは、邪悪な力なのではないのか?
インゲは、自分に自信がなく、
諸々のことを心配しすぎて円形脱毛になっていたくらいなのだ。
旅を通して、インゲの瞳の色とその力には意味があったことがわかる。
本シリーズを、私は、「一番小さく弱いと思われている者に力が宿っていて、
その者がその力に悩み戸惑いながら、真の力の使い手となる物語」と読んだ。
これは、私なりに「インゲの物語」を要約したものである。
クルリ、リセ、レラ、ツクモにもそれぞれ物語がある。
みんなそれぞれに得意なところがあり、
それが見事にはまって、チームワークを作り出した。
旅の後は、それぞれの道をしっかり見つけて歩んでいく姿に
嬉しくなった。
そればかりではない。
本シリーズでは、ねずみやからすやモグラや犬も登場するが、
みなそれぞれの立場があり、物語がある。
時に対決することにもなる彼らだが、
本シリーズは、敵をただ敵として描かない。
なぜそのようになったのかの背景をしっかりと見つめ、描いている。
だから、安易な対立劇には終わらず、大団円にも納得感がある。
これは、『ルドルフとイッパイアッテナ』に流れていたものと同じものだと感じた。
猫はあきらめないものです。
猫は逃げたりしないものです。
猫はやる時はやるものです。
とくに、旅猫は!
この言葉は3巻シリーズを通して、土壇場で繰り返された言葉である。
シンプルなのだが、気合いが入る。
これは、自らを励ます魔法の言葉となりうる。
私たちは、自分たちの物語を生きる主人公だ。
どんなことがあっても!
ヒゲに誓って!
これは、猫たちの合言葉であり、
やがて、ねずみたち、犬たちも使うようになった言葉である。
ニンゲンは彼らほどの立派なヒゲはないけれど、ちょっと誓ってみたくなる。
ほら、目線も頬骨も口角も上がったでしょ?
- 感想投稿日 : 2010年7月23日
- 読了日 : 2010年7月23日
- 本棚登録日 : 2010年7月23日
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