世界は贈与でできている 資本主義の「すきま」を埋める倫理学 (NewsPicksパブリッシング)

  • ニューズピックス (2020年3月11日発売)
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資本主義という価値と金銭の交換がベースの世の中で、お金で買えないもの、その非合理な余剰とも言うべき存在を贈与と呼ぶ。贈与は見返りを求めることなく、すでにもらった贈与に対するお返しという形で次に渡すことになるが、受け取ったことに気づくこと自体教養が必要であり、受け取ったことを発信者に伝えることで発信者へ生命力を与えることもできる。見渡せば先人たちが積み上げてきた無数の贈与にこの世は満ちている。そんな贈与の存在を自覚し、メッセンジャーとして繋いでいくことこそ生きる意味ではないか。

要約と自分の理解がこれです。この本を読みながら本の中で紹介されているPay it Forwardという映画もみました。これは映画を見てから本を読んだほうがいいです。

昨今はGIVERになれということをよく聞きます。しかしこれは聖人君子になれということでも、後々自分のためになるからやれということでもなく、先立って自分が受け取ったものの自覚から始まるんだという理解をすると腹落ちします。先立って受けてきた恩恵の自覚の大きさが、その人を動かす力となるのでしょう。

以下メモ
以下ネタバレです



◯お金で買えないもの:贈与
・誰かからプレゼントされた瞬間にモノはモノではなくなる。その余剰分は自分では買えない、贈与は価値創造、お金で買えないものは贈与。
・経済学的には欲しいものを知っているのは本人なのでお金を渡すのがベスト
・贈与を受け取ることは関係性を持つことを受け入れたことを意味する。返礼が贈与の応酬へ。受け取ってもらえること自体が嬉しい。
・親から子の贈与は無償の愛ではなく先立つ自分への贈与という負債の返済。子に愛を与えた親は、子が贈与する対象を得て初めて完了したと認識を持てる、だから孫の親は顔が見たい。
・先立つ贈与がない自ら始点となる贈与は必ず疲弊し悲劇を生む(自己犠牲)。贈与は必ずプレヒストリーを持たないといけない。

◯ギブアンドテイクの限界
・他人を手段として遇する態度(仕事)贈与のない交換が支配的な世界には信頼関係が存在しない。
・贈与のない世界では、何も持っていなくて助けを求めたい状態において原理的に助けを乞うことができない。誰にも迷惑をかけない社会とは、誰からも必要とされない社会
・遅刻欠勤が罰金を課すことでむしろ違反者が増えた、という事例から、倫理や義務感、誇りといった内的動機、責任を交換によって失わせてしまう

◯贈与が呪いになるとき
・贈与による人を結びつける力は縛りつける力にもなりうる。時に繋がりを求めながら繋がりに疲れ果ててしまう。
・ダブルバインド: 強い関係性における相反する二つのメッセージ。答えが最初から封じられているコミュニケーションは精神を蝕んでいく
・贈与はそれが贈与だと知られてはいけない、明示的に語られる贈与は受けての自由を奪う。返礼の義務を生み出し交換へ変貌する。もし交換対象を持っていない場合負い目に押し潰され呪いにかかる。
・名乗ってはならない、しかしずっと気付かれないと贈与にならない。あれは贈与だったと過去時制で把握される必要がある。

◯贈与の正体
・贈与には過剰さや冗長さがある、贈与は行為から合理性を差し引いたものとも言える。贈与は合理的であってはならない。敬意や礼節はそうしたものの一つ
・好きな理由を挙げる時不合理なことが含まれるほど愛のメッセージになる。ただし合理的なものの後で言わないと怒りを買う。
・サンタクロースは純粋贈与、サンタクロースは名乗らないことで時間を生み出す
・贈与は届かないかもしれない、届くといいなという祈り、贈与は偶然で不合理なものだと思う節度が必要。
・贈与は差出人に倫理を要求し、受取人に知性を要求する。
・過去の中に埋もれた贈与を受け取ることができた主体だけが再び未来に向かって贈与を差し出すことができる。

◯言語ゲーム
・実践を通してゲームが成立し、事後的にルールがあたかもそこにあるように見えるもの。言語の取得過程やスポーツなど
・意味は心の中の感覚などではなく、コミュケーションの成立、スポーツが出来ることそのもの。
・他人のことが理解できないのは、心の内側がわからないからではなく、その他者の言語言語ゲームに一緒に参加できていないから
・他者と生きるとは言語ゲームを一緒に作っていくということ。

◯常識を疑えを疑え
・不合理、異常なことには過去の情報が畳み込まれている。これをとりまく常識を知っていることで正しく読み解くことができる。シャーロックホームズのように。
・私たちが当たり前だと思っているものは実は過去の人たちが作り上げた贈与である。その中には不安定な釣り合いを外力で支えているものもあるが私たちは気づかない。SFのようにこれを伝えるストーリーがあって初めて当たり前のことは伝わる。
・防がなくても自分の責任ではないが、自分がやらねばと感じるunsung hero、そこにはインセンティブはないし、一切その贈与が気づかれないことを望んでいる。前任の存在に気付くことで連綿と続いていく。

◯贈与のメッセンジャー
・贈与は市場経済のスキマにあり、交換が日常だからこそ余白として生まれる。
・贈与のビジネス活用「クルミドコーヒー」値段に対して対価が大きいと負い目感を持ち、お返ししなければという思い、次なる来店や口コミに繋がる。無料のクルミ
・贈与を受けたものの繋げなくなった人はどうすればいいのか、それは逆向きに差出人へ与えるという解がある。贈与を受け取ったと差出人に認知してもらうことが差出人に生命力を与える。
・教養とは誤配すなわち常識を学ぶことで贈与の存在に気づくこと、そして世界が贈与に満ちていることを悟ること

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年7月27日
読了日 : 2020年7月26日
本棚登録日 : 2020年7月12日

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