ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ)

著者 :
  • 中央公論新社 (2020年12月10日発売)
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感想 : 34
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泣ける。

個人的には創設期の2010年から3年ほどと、それから「観光客の哲学」が出版された2017年あたりにゲンロン友の会に入会していて、著作も背伸びしながらずっと読んできたものだから、ゲンロンというおそらく日本で唯一無二のユニークな会社の内部で当時なにが起こっていたのかは、相当なリアリティを持って読めた。

多くの方がレビューで書いているとおり、「会社の本体はむしろ事務にあります」やら、離反した社員の残した経理書類をひたすら整理する話やら、兼任社長のキャッシュ使い込みやら、もう生々しい闘いの日々の記録は涙なしには読めない。

そしてその傷をそのままさらすことで、社会と関わるということは、所詮そういう生々しいヒトの欲望と向き合って傷だらけになることなのだと、読み手を勇気づけてくれる。

だからこそ、東氏の活動における「権威的で古い論壇界隈を離れ、もっと濃密に社会と関わっていこう」とするスタンスは、象牙の塔にこもって自分たち(ホモソーシャル)だけにわかる言語で会話をしながら傷つかないようにタコツボ化していく同時代の“思想家”の歴々とはまったく違うもので、そのインパクトはとても大きい(と思っている)。

そんな東氏がいろいろあって今ケンカを売っているのは、YouTubeに代表されるネットの広告収益モデル(による言葉≒コンテンツの劣化)なのだから、そのドンキホーテっぷりをもう全力で応援するしかない。

おそらく本書は東氏の著作、またゲンロン関連書籍を全く読んだことがない人が読んでも、それほど感情移入できないと思う。

雰囲気としては矢沢永吉の「成り上がり」が近いのかな?(読んだことないけど)失敗だらけの赤裸々な半生こそ、後に続くものにとってかけがえのない教訓を与えてくれるものだ。

こうすれば成功する、儲けられる、という類のノウハウ本、自己啓発本には何の価値もないが、「近道はない、地道に信じることをやれ」と言ってくれる書こそ、本当の啓発書だと思う。

いやぁ、おもしろかった(学びが多かった)。

事務大事、経理大事。人に任せる仕事をそもそも自分で理解しておくこと大事。でも、クリエイティブは王様だとも思う。

それこそ2009年頃(ちょうど前職の会社に入社して、いろいろ迷っていた頃ですね)からあずまんをフォローしてきてよかったな、と思いました。

言葉で完結するコミュニケーションはない。コミュニケーションの誤配にこそ、新しい価値が宿る。これを現代の世相の中でどのように実装し、価値づけ、人々を啓蒙していくか。今後もゲンロンの動向から多くを学んで、僕も実践したい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年1月5日
読了日 : 2021年1月5日
本棚登録日 : 2021年1月5日

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