風立ちぬ・美しい村 (岩波文庫 緑 89-1)

著者 :
  • 岩波書店
3.52
  • (12)
  • (19)
  • (38)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 315
感想 : 31
3

「 美しい村 」で描かれるのはK村とされる。軽井沢らしい。物語の起伏らしきものはほぼ無く、風景や季節が淡々と描かれるのだが、それだけでも読ませる。高原や林の小径を辿ってゆく道行き。風や雲、霧、夕暮れの空。野薔薇などの草花。そうしたものの素描。されどなんだか味わいがあり、心地よくもあるのだ。

「 風立ちぬ 」は八ヶ岳山麓のサナトリウムが主な舞台。フィアンセの節子が肺病を病み、高原の施設で長期療養をしている。自分は、彼女に付き添っている。「 美しき村 」と同じく、雲が流れゆく高原の空や、夜半の雨 といったことが丁寧に静かに描かれる。節子の病は回復する希望はない様子が伺える。だけども悲劇的な感じが強く刻まれることはなく、薄い死の気配が漂うのみである。終幕に際しても、彼女の死が明瞭に触れられることはない。

高原の景色( 心象風景か )を 淡々と書き綴る洗練されたタッチは 欧州の小説を思わせる。先に 漱石や鴎外の小説で、本郷上野界隈を舞台とした作を続けて読んだこともあり、高原を舞台とした所収2作は新鮮であった。

巻末の解説に以下の記述あり。「戦争末期の予備学生の九分九厘までが堀辰雄の愛読者だったと聞いた」。作品に通奏低音のように漂う死の気配が彼らの共感を読んだ、とする論である。
※ 1930年代後半の作品だという。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説・文学 (国内)
感想投稿日 : 2018年3月28日
読了日 : 2018年3月24日
本棚登録日 : 2018年3月14日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする