新樹の言葉 (新潮文庫)

3.56
  • (38)
  • (50)
  • (115)
  • (8)
  • (0)
本棚登録 : 627
レビュー : 58
著者 :
葡萄森兄夫さん 小説・文学 (国内)   読み終わった 

 甲府市に移り住み、作家生活と人生の再出発を期していた頃の短編を中心に編纂された文庫である。
 精神病院に入るなどボロボロに荒廃し、作品も荒れていた時期の後に書かれた作品群である。おそらく「二十世紀旗手」の後の創作にあたる。
 尖鋭でぶっ飛んだ「二十世紀旗手」の作品の後に読むと、この「新樹の言葉」に集められた掌編は、穏やかで、やわらかい感じを受ける。

斯様な一節があった。
「私は、これからも、様々に迷うだろう。くるしむだろう。波は荒いのである。」 
~『懶惰の歌留多』~
 ふっと、この言葉に胸を突かれた。こういうところに太宰文学の魅力を感じる。

 さて、本文庫では、とりわけ、以下の掌編が気に入った。
・「新樹の言葉」。甲府で、幼き頃より慕っていた乳母の子と思いがけず再会するお話。そのよろこびとうれしさに満ちている。ほんとうにうれしそうである。
・「春の盗賊」。後半、自宅に侵入した夜盗と対面、対話が始まる展開から、俄然面白くなる。ユーモラス。天与の噺家の才能を感じる。
・「老ハイデルベルヒ」。帝大生の頃、伊豆の三島に旅したときの思い出。そして、再訪した際の侘しさを描く。調子にのって友人達を強引に三島まで連れ出すのだが、道中どんどん心細く、焦り始め、それでも強がりを言い続ける小心者ぶりが面白い。

レビュー投稿日
2016年4月3日
読了日
2016年4月3日
本棚登録日
2016年3月30日
0
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『新樹の言葉 (新潮文庫)』のレビューをもっとみる

『新樹の言葉 (新潮文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

『新樹の言葉 (新潮文庫)』に葡萄森兄夫さんがつけたタグ

ツイートする