「きけ わだつみのこえ 」つながりで読み始めた。京大生・吉野は学徒動員で海軍予備学生となり入営。旧軍隊内の訓練(しごき)の日々。そして吉野は特攻機パイロットとして死地に赴く。
学徒兵の手記として描かれる小説である。だが「吉野の手記」は、「 きけ わだつみのこえ 」の現実とつながるリアリティがあった。作者阿川自身が海軍予備学生であったためだろう。
ただ、少々の物足りなさを感じる面も。「わだつみ」所収の“本物の”手記には、葛藤、そして、諦観・覚悟へ、という過程が、短い手記のなかにも読み取れるものがあった。しかし、吉野が、飛行兵として覚悟を決め、特攻の死を受け止めるまでの心情変化の過程は、さらりと過ぎてしまった印象。いつしか、状況を受け止めていった、という感じなのだ。
一方、京大同窓の学徒にして隊の同期生藤倉という登場人物がいる。この戦争の大義に常に懐疑的で、特攻隊員としての死を拒み、生き残る策を模索する。彼は、吉野と対比的な役割を担って描かれたように思う。
日常を記録する淡々とした場面のなかに、遠慮の無い凄惨な描写が現れるところがあり、意表を突かれる。航空隊基地が爆撃を受けた後、あちこちに散らばる四肢をバケツに拾い集める様や、麻酔無しで肢を切断手術する阿鼻叫喚。不慮の事故死に遭う某航空兵の死、その惨状。これら実に生々しい。
「練習機赤トンボ」、「九九艦爆」。そして、新鋭機「銀河」、「彩雲」などなど。様々な機体が登場するのも興味深い。あの戦況と生産条件のもとで尚、航空機の生産、開発を続けたことに驚き感心した。
文庫巻末、安岡章太郎の解説曰く。
「(海軍)兵学校出の海軍士官を殺すのがもったいないために学生を将校に速成してつかうのだ」。
そういう見方があるのだと初めて知る。
ところで、かつて、自身が小学校3-4年生当時のある思い出。校内の図書室で本書単行本を手にした担任教師から、「お前、これ読んだらどうだ?」と薦められたのだ。その教師の真意は、今となっては知るよしもない。だが、40年余りの後、ふとしたきっかけで読了。奇妙な縁を想う。
- 感想投稿日 : 2018年1月27日
- 読了日 : 2018年1月14日
- 本棚登録日 : 2018年1月9日
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