人間の大地 (光文社古典新訳文庫)

4.16
  • (12)
  • (13)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 154
レビュー : 11
制作 : 渋谷 豊 
葡萄森兄夫さん 海外文学   読み終わった 

 南米、北アフリカなどを舞台に、レシプロの飛行機で定期航路を飛ぶ。サン・テグジュベリの実体験を基にした随筆。リアリズムと、形而上学が鮮やかに交錯しており、なんとも魅力的。すばらしい。
(程々の)高空から眺める、アフリカや南米の大地の表情、風景が描かれる。そして、壮絶な遭難体験。
神の目線に近い上空から大地を見つめ続ける視線視座の故か、そして、対話する相手もなく飛び続ける孤独の故か。思いはときに内面に向かい、ときに透徹な思考にいたる。

最も、強烈なのは、冒険飛行の途上、サハラ砂漠で遭難不時着したときの極限の体験。創作では到達しえない、実体験のもつリアリズム。なおかつ、飢えと渇きの極限状況のもと、サン・テグジュべリの眼前に拡がる世界は、異界のような幻想風景となってゆく。

他の短編も面白い。モロッコの、しかもさらなる辺境部、西サハラでの日々も、珠玉のもの。スペイン軍の砦に隣接して、定期航路のための飛行場がある。( ※キャップ・ジュビー/ タルファヤ )
サン・テグジュべリは、同地で1年近く過ごしたという。現世から乖離したかのような、幻想的な世界。
周辺の敵対的部族による襲撃を怖れる緊張感。奴隷の老人を救いだしたエピソード。
そして、飛行場周辺に生息した野生のフェネックギツネのこと! これは、私には大いなる驚き、発見である!
サン・テグジュべリは、この西サハラの辺境の橋頭堡で、無聊をまぎらすためもあったのだろう、砂漠にいるフェネックギツネを飼っていたというのだ。
そう「星の王子さま」にキツネが登場するが、これは、このときのフェネックがモチーフになっているにちがいない。
つまり「星の王子さま」は、単なるファンタジーではなく、過酷な西サハラの自然と、その日々に於ける、あるリアリズムとつながっていたように思われるのだ。
私は、この視点を持って「星の王子さま」を再読することを決めた。

そのほか、南米ウルグアイ近くの(アルゼンチンの)田園地帯(田舎)に暮らす家族のエピソードが印象深い。不時着して短いあいだ世話になるのだが、美しい姉妹がおり、床下に野生のマムシが棲んでいたりする。夢の世界の一部であるかのような、この家の時間の流れ。幻想的で奇妙な魅力に包まれている。

魅力的な掌編が数多くあり、またいつか、繰り返してひろい読みしたい。そう思わせる、珠玉の作品である。 
私は、サン・テグジュべリの作品では、本作を最も気に入っている。

レビュー投稿日
2019年1月19日
読了日
2018年8月26日
本棚登録日
2018年8月12日
3
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『人間の大地 (光文社古典新訳文庫)』のレビューをもっとみる

『人間の大地 (光文社古典新訳文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

『人間の大地 (光文社古典新訳文庫)』に葡萄森兄夫さんがつけたタグ

いいね!してくれた人

ツイートする