クレーヴの奥方 (古典新訳文庫)

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レビュー : 7
葡萄森兄夫さん 海外文学(古典)   読み終わった 

16世紀フランスの宮廷・貴族社会を舞台に、17世紀に書かれた「恋愛小説」。
前半50頁くらいまで、フランス王室や宮廷に関する史実を淡々と叙述。1人称、2人称の物語がなかなか始まらず、退屈する。この前段で投げ出す人も多いはず。また、途中で、本筋と直接関係ないサイドストーリーも展開。別の不倫男女の匿名の恋文が宮廷に一波乱を発生させ、今度はその恋文が、クレーヴ夫人の本筋に影響を与える、という、とてもわかりにくく、まわりくどい展開もある。(それらをあまり精読せず、気にせずにさらりと読み進めることをお勧めする。)

そうした要素を我慢して前に進むと、そのあとにこってり濃厚な恋愛心理の物語が待っている。

さて、以下、物語の本筋、概要。 (!ネタばれ含む)

「シャルトル侯の娘」である「クレーヴ嬢」は16歳ほどの若さ。クレーヴ公の求婚を受けて結婚し「クレーヴ夫人」となる。この物語の主人公である。親が決めた縁組でもあり、ほんとうの恋心というものを知らぬまま、クレーヴ公と結婚したのであった。
夫人は夫の人柄を尊敬するのだが、夫への恋愛感情を抱くことはない。夫のクレーヴ公は、美しい妻を娶った喜びの一方で、妻の情愛を感じられぬ寂しさともどかしさに思い悩み、苦しむ。
時を同じくして、美貌の青年ヌムール公は、人妻クレーヴ夫人への恋心を燃やし始める。そして、夫人は、夫には抱くことがなかった「恋心」を初めてヌムール公に抱く。

だが、ここからが、他の恋愛小説と趣を異にする。
クレーヴ夫人は、自身のヌムール公への好意を自覚しつつも、夫に忠実であろうとし、ヌムール公の接近を拒み続ける。夫人は、内面には揺れる恋心を抱えながらも、ヌムール公のあの手この手の、そして強引なアプローチを回避、拒絶。田園の別荘に隠遁したり、姿を隠したりもする。

簡単に言うと、ヌムール公とクレーヴ夫人の攻防が、(本文庫で)200頁以上続く。

クレーヴ夫人、思えば、なんとも強靭な精神力である。
なぜ、クレーヴ夫人はここまで禁欲的に「操」を守り続けるのだろう…。という疑問を抱かないではない。
その理由は、思うに③つある。

夫人の気持ちその①、ヌムール公への思いに身を委ねると、歯止めなくずるずると不倫の沼にはまる地獄・破滅を怖れたから。
②夫の高潔な人格への尊敬の念はあり、その夫を裏切ることは出来ない、という思い。

そしてその③である。
夫人とヌムール公の奇妙な関係は、夫クレーヴ公の知るところとなる。しかも、夫人は、夫への誠実さの発露ゆえに、夫に対して「ある男性に恋心を抱いている」と告白。
以後、夫は嫉妬、悶絶、悲嘆の思いに苦しみ続ける。やがて夫クレーヴ公はこの異様な状況のもとで悶死に至るのだが、それが理由の③となる。夫人は、夫の非業の死への責任を痛感し、ヌムール公を拒むことを強く決意するのだ。
 
こうやって、物語を振り返りながら書いていると、本作の面白さが改めて蘇ってくる。
繰り返すが、なんともこってり濃厚で、不条理/異常なプロットである。後半、ヌムール公はますます執念深くしつこく、クレーヴ夫人にアタックを繰り返す。夫人は(内面ではヌムール公を恋しているのに)それでもなお、ヌムール公を固く拒絶し続ける。
読者の私は、ヌムール公のしつこさにうんざり感を抱き、それゆえか、夫人の完全なまでの拒絶に一種の快感、カタルシスも覚えるのであった。

* * * * *
光文社版文庫の解説には、興味深い情報も掲載。
小説『クレーヴの奥方』と大岡昇平、三島由紀夫、太宰治との関連について書かれている。

レビュー投稿日
2020年1月18日
読了日
2020年1月18日
本棚登録日
2020年1月5日
2
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