いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房)

  • 早川書房 (2015年2月19日発売)
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感想 : 49
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焦燥感や焦りという衝動への理解、対処のヒントになるかなと読んだ。
本の内容を要約すると、訳者あとがきの次の一文のようになるだろう。

"""経済学では「希少性」という客観的な表現が使われるのが一般的だが、本書では「欠乏」感、つまり切実な「足りない」という主観的感覚を指している。そういう意味で、いつも「時間がない」と言って忙しくしている人も欠乏を経験している。そこがこの本のかなめである。時間が足りないと嘆く人と、お金が足りなくて生活が苦しいと思っている人に共通する心理があり、その心理が行動に影響するために似たような行動が生まれる。この考えを検証することによって、個人や社会を悩ませている問題への理解を深めて、よりよい解決策を提案したいというのが、本書の目的なのだ。"""

焦燥感や焦りにつながる心模様を本著では「欠乏」と定義していた。欠乏とは「自分の持っているものが必要と感じるものより少ないこと。」となっている。
「欠乏」は無意識に精神を占拠する。これは良い面を上げると対象に対して「集中ボーナス」が発生し持てるものを対象につぎ込むことができる。しかし、無意識のうちに発生する欠乏による精神の占拠は日常の他の面に気が回らなくなる。
たとえば飢餓の実験をすると対象者の将来の夢がレストラン経営になったり、料理本を夢中で読み始める。これは食べ物が精神の中心を占拠し、欠乏によって物の見方が変わり、選択の仕方が変わってしまう症状だ。他にも欠乏とは無関係の大事な約束や締切を忘れるような「取りこぼし」が多くな る。払える見込みがない支払いを抱えているものが日常の仕事に集中することは不可能だろう。目先の解決にとらわれて「借金を返すための借金」をして雪だるま式に借金が増えていく。「そんなこと私はしないよ」と思っていてもお金ではなく「時間」に対して同様の対応をしてしまうことはよくある。

"""この現象は貧しい人だけのものではない。忙しい人たちは、しばしば同じように高い利率で時間を借りる。期限が迫っているプロジェクトのために、多忙な人はほかの仕事を先送りにすることによって時間を借りる。そして給料日ローンと同じように、返済期限は来る。後回しにした仕事をやらなくてはならないのだ。そして借りた時間にもたいてい「手数料」がかかる。仕事を先送りにすると、やり終えるのにかかる時間が増えるのだ。"""
"""これが続くと、やがて私たちが「ジャグリング」と呼ぶものになっていく。それは緊急の課題を曲芸並みに次から次へとやりくりすることである。ジャグリングはトンネリングの論理的帰結だ。人はトンネリングを起こすと、問題をその場しのぎで「解決」する。いまできることをやるのだが、それが将来の新しい問題を生む。"""

欠乏を避けるにはどうしたらいいか、本著ではそれを「スラック(余裕)」の概念とよんでいた。スラックがない場合、欠乏による焦りがさらなる欠乏を生む。

"""スラックの概念は欠乏心理の核心に迫るものだ。スラックがあると豊かさを感じられる。スラックはたんなる非効率ではなく、心のぜいたくでもある。豊かであれば、より多くの品物を買えるだけではない。ぞんざいに荷づくりをするぜいたく、考えなくていいぜいたく、そしてまちがいを気にしないぜいたくが許される。ヘンリー・デイヴィッド・ソローが言うように(25)、「人の豊かさは気にしないでいられるものの数に比例する"""

スラックがなければ欠乏は我々の処理能力に負荷をかけていく。負荷がかかる状況を理解し、欠乏の影響を加味して選択を再考する、決定すべき選択肢の基本要素を明確にし、用意し認知能力を効率よく利用する必要がある。

欠乏という概念と欠乏がおよぼす行動への悪影響を認知できるようになった。
自分の中でかなり速読したせいか、その具体的な対処方法まではわからなかったが、「今欠乏の影響を受けている」と自覚するだけでも自分の選択を変えていけるかなと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2020年8月5日
読了日 : 2020年8月5日
本棚登録日 : 2020年7月20日

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