前夜祭

  • 講談社 (2009年3月1日発売)
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本棚登録 : 185
感想 : 17
5

少し消極的な吉田よし子とだいぶ破天荒な港チリの女子中学生二人が、泥祭りという文化祭の催し成功のために尽力する。
その成功への模索はやがて、五年前に泥祭り実行委員長(通称泥王)であったある少女の死の真相へと集約されていく。
中学生に焦点を当てると青春物語、大人たちに焦点を当てると過去の清算の物語として読みうるのではないだろうか。
長期連載化している『団地ともお』を除いた小田扉作品集の中で、私はこれが一番好き。

泥祭りという非現実的な設定のナンセンスさと反比例するかのようにリアルな登場人物の心情。
『団地ともお』の小田扉さんは中学生を描いてもすごかった。大人もすごい。
小田さんの人物描写は、息のつまるような客観性と善悪とか全部ひっくるめて肯定するような眼差しが同居しているのが素敵。

その人間観が端的に出ているように感じたのは、以下の、温泉が庭から出たと嘘をついた男に対する「温泉」の独白。

「彼が何気なくついたウソはいまや立派なサギ行為だ
ただそれは人間社会での価値観であり、私にとっては未だに「かわいいウソ」だ
いつか男が死に彼のウソが露見しても、笑って許してやってほしいと思う」

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 小田扉
感想投稿日 : 2009年8月4日
本棚登録日 : 2009年8月4日

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