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ルノアール兄弟の愛した大童貞 (1) (シリウスKC)
- ルノアール兄弟
- 講談社 / 2008年6月1日発売
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江戸の大童貞・ドゲレツ斎を先祖にもつ中年・土毛が、モテない中学生とともに大童貞を目指す下ネタギャグマンガ。
ドゲレツ斎という名称、サンバイザーからも分かるように、キテレツのパロディ、途中からトーナメントが始まり、おそらく男塾のパロディだと思われる。
全編下ネタ。基本、どうしようもなくくだらないのだが、「お気に入り女子ランキング」を心の中でこっそりとつけてみたり、変にプライド高かったりという、モテない中学生の行動は意外とリアリティがあるのかもしれない。
あと、直接的に読者に呼びかけてくる作者のナレーションがツボに入って、笑いをこらえることが出来ない。なんでか分からんが、あれだけ下らないことを力強く呼びかけられると、もうそれだけで駄目だ。笑ってしまう。
もちろん人を選ぶのだろうが、伊集院光さんのラジオとかが好きな人や、童貞心を忘れない人は合うかも。
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卒業生 ―冬― (EDGE C)
- 中村明日美子
- 茜新社 / 2010年1月28日発売
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優等生眼鏡とお気楽バンド男の恋を丁寧に描写した傑作BL漫画「同級生」の続編。「冬」と「春」で完結。
BLなので当然同性愛なわけだが、清潔感をもって、やきもきするような恋愛感情をじっくりと描いているので、ほとんど気にならず、抵抗感無く読むことが出来た。
恋愛をしている際に、相手のことを想うがゆえにかっこ悪いことになっちゃう描写が、身に覚えがありすぎる。
一人で考え込んで、相手に八つ当たりしてみたりとか。
「大丈夫?」って聞いて「大丈夫」と答えさせちゃって失敗したと感じたり、それでも心配でつい「大丈夫?」と聞いてしまったりとか。
テンパって思わずキスしちゃってディープになっていくところで素に戻って慌てて中断して帰ったりとか。
割って入る隙間の無い片恋慕にじりじりしながら、つい逆走するように、二人をけしかけてしまう原先生の気持ちもよく分かる。甘酸っぱいのう。
進路や家族の病気といった現実的な問題と恋とをいかにして両立するのか、も非常に良くかけてると思う。草壁の素直さが佐条を優しく支えている。
この素直さが自分にあれば、あの時ああはならなかったろうに・・・なんて考えてしまう。
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星守る犬 (アクションC)
- 村上たかし
- 双葉社 / 2009年7月6日発売
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仕事にかまけ、家族の言葉に耳を傾けることを厭んできた「おとうさん」。仕事を失い、家族にも逃げられた彼は、飼い犬とともに車上生活を始める。こうの史代さんを思わせる絵柄と空気感。
ベタもベタだが、細部まで丁寧に作られており、犬の真っ直ぐさも相まって、胸に迫るものがある。
「おとうさん」と愛犬との生活をつづる表題作とその後日談である「日輪草」の二篇から構成されている。前者のみならば、ハチ公物語の変形に過ぎないよう感じたが、後者で、その悲劇がある公務員に与えた影響を描くことで、物語に深みが生じている。
向日葵に囲まれた犬と朽ち果てた車という装丁は、絵として綺麗な上、物語を集約していて、実に良いデザインだ。
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度胸星 (1) (ヤングサンデーC)
- 山田芳裕
- 小学館 / 2000年5月2日発売
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伝説的トラッカーを父に持つ、長距離トラッカー三河度胸を中心とした宇宙飛行士選抜試験の模様と、火星を舞台に、宇宙飛行士スチュアートと謎の物体テセラックとの対峙を交互に描く。
十分に面白いが、中途半端なところで打ち切られてしまっているのが悔やまれてならない。描ききっていたら、傑作SFとなっただろう。
人間の宇宙進出を拒むかのようなテセラックと、人間の可能性を実直に訴え続ける度胸たちとの対比構造が面白い。この二項対立がどう発展していくのか見たかった。
しかし、この山田芳裕さんの漫画の感想を書くのは難しいなぁ。
面白い。間違いなく面白い。熱量も高いし、絵も実に印象的、物語性も非常に高い。
しかし、それらはなぜか残らない。残るのは興奮の余韻のみである。
これは欠点として指摘しているのではなく、ただひたすら読者を巻き込んで、興奮の高見にまで連れていく、純粋なエンターテイメント性みたいなものが、山田芳裕作品を占めているのだと思う。
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アラベスク(文庫版) (I) (白泉社文庫)
- 山岸凉子
- 白泉社 / 1994年1月1日発売
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田舎のバレエスクールに通う少女ノンナは、ある日、ソビエト随一の男性ダンサー、ユーリ・ミノロフに才能を見出され、レニングラードバレエ学校に入学することとなる。
ライバルとの闘いとユーリへの思慕を二本柱にして、展開する。
非常に定型的な少女マンガ。むしろこういった作品が少女マンガの定型を形成したのかも。そう考えると、今でもこれと同じ形式で描かれている「ガラスの仮面」ってすごいな。
主人公は少女マンガらしく「もともとは平凡だったけど実は才能のある、泣き虫で気弱で初心な女の子」。それでも陳腐にならないのは、作者のバレエへの思い入れに由来するだろうディティールへの気配りや、演舞シーンの絵画的華麗さ、脇役まで血の通ったキャラクター描写によるのだろう。エーディクなんかたまらなく魅力的だ。
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海街diary 陽のあたる坂道 (3) (フラワーズC)
- 吉田秋生
- 小学館 / 2010年2月10日発売
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基本的に、ここの本棚には各作品の一巻のみを登録してるんですが、あまりにも良かったので三巻も登録してまえと。
いやいやいや。しかし、上手いわ。本当に達者。
なんで、こうも見事に、揺れ動く心理を捕らえきれるのだろう。もう読んでる最中、感心して唸ることしきり。
重層的に響きあう登場人物の心理に、音楽的な快感さえも感じられるほど。和音的な。
私は、通常、楽しみにしすぎているシリーズだと、自分の中でハードルを上げすぎてしまい、初読では「あれ、それほどでもないな」という印象を受けがちなのだが、今回はそれを軽く越えられてしまった。
帯の「未来の古典を約束された」という宣伝文も、全く言い過ぎではないと思う。
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賢い犬リリエンタール 1 (ジャンプコミックス)
- 葦原大介
- 集英社 / 2010年2月4日発売
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拳法自慢のてつこと、ひょうひょうとした兄の元に、変わり者の両親から届けられた「弟」は、不思議な力を持つ賢い犬・リリエンタールだった。
サスペンス要素を含んだコメディ。現在ジャンプ掲載マンガ中、最も「ジャンプらしくない」作品かも。
数年ぶりに買ったジャンプコミックスだったりします。掲載位置を見ていると、あまりアンケート結果が良くなさそうなので不安。満足いく形で書き切るまで、続いて欲しい。
シンプルな絵柄とかわいらしいキャラクターで一見子供向けに見えるが、構成が丁寧で、かつ、台詞の一つ一つまでよく言葉を練っているな、という印象を受ける。そういった意味で、毒気を抜いた小田扉、といった雰囲気。
基本的にはほのぼのした空気感だが、シリアスな側面も匂わされているので、そこがどのように展開していくのか楽しみ。
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K (アクションC)
- 谷口ジロー
- 双葉社 / 1993年7月1日発売
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伝説的なシェルパ「K」が、雪山に挑む。
アルピニストの過酷さがよく分かる作品。ごろごろ人が死ぬ。死による。
山や自然の脅威が、ナレーションによって丁寧に語られており、自然への畏怖を感じさせる。
関係ないけど、同作者の「孤独のグルメ」の主人公っぽい顔の登場人物が出てきて笑ってしまう。
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金魚のうろこ~田辺聖子原作シリーズ~ (1) (クイーンズC)
- 鴨居まさね
- 集英社 / 2007年2月19日発売
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鴨居まさねが田辺聖子の短編小説を漫画化。
年齢わりと高めの男女の関係性を多く扱っている。
家族というものの重層性を感じさせる「達人大勝負」と、恋愛を引きずる感情に共感させられた「夢笛」が好き。
重い問題を扱っても、ユーモアをまじえて清潔に描ける鴨井さんと、関西人らしい柔らかさと芯の強さを持った田辺聖子さんの組み合わせは、相性ばっちり。編集さんの企画力の高さを感じる。
ただ、原作の時代性ゆえだろうが、女性観・男性観がやや古く、ところどころ目に付いてしまう。
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まあじゃんほうろうき(文庫版) (上) (竹書房文庫)
- 西原理恵子
- 竹書房 / 1996年1月1日発売
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西原理恵子の印税はいかにして使われたか。初期西原。いわゆる無頼派のほう。
現金が飛び交う飛び交う。一ギャグいくらだ、これ。楽しそうだけど、関わりたくないなー。
特に某広告代理店・博○堂の宮ちゃんは下衆の極み。あまりにイヤミで子ども泣くわ。
絵柄が確立されていく様子が伺えるのも面白い。
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昴 (1) (ビッグC)
- 曽田正人
- 小学館 / 2000年6月30日発売
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一貫して天才を描き続ける鬼才・曽田正人さんによるバレエ一代記。
「昴」自体は中途半端なところで終わっているが、数年の間を経て、「moon」という続編が現在も連載中。連載再開して本当に良かった。
確かに10~11巻にかけての展開に不満はあるが、曽田さんの勢いのある筆致で描かれる、昴のダンスによってもたらされるカタルシスの瞬間最大風力の強さは他に類を見ないもの。
一巻に描かれる、主人公の昴がバレエを始める「きっかけ」からしてもう圧倒される!
また、昴が小憎たらしいんだ、これが。ズレてるっていうか、ナチュラルに自己本位っていうか。「あーもうこいつは何なんだ」っていう感じ。そのくせダンスになると圧倒させられるし。
何というか、天才に翻弄される快感みたいなものがありますな。
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理系の人々 コミックエッセイ
- よしたに
- 中経出版 / 2008年10月7日発売
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現役SEの「オタリーマン」による理系あるあるマンガ。
私は文系だが理屈っぽい性格なので、ところどころ納得出来る。というか、そもそも文系も学問においては「理系的な思考」(自然科学に則った論理的思考)が必要とされるもんだよ。追試認証性とか無いと話しにならんし。
理系人の習性を自虐的に扱っていると書かれているが、私の目には自虐には映らない。
むしろ、「こんな時にもこんな科学的な考え方しちゃうんっすよー変でしょー変でしょー」的な、捻くれた自意識・自己顕示欲を感じる。例えて言うならば、「俺昨日二時間しか寝てないっすよー」と同じレベル。妙にうれしそうな感じ。
あと、情報科を出たSEに過ぎない筆者が、生物学とかまで専門っぽく語るのは笑止。「理系」の一語で括れるほど、自然科学の学問体系は狭くない。
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ボーイズ・オン・ザ・ラン (1) (ビツグ コミツクス)
- 花沢健吾
- 小学館 / 2005年11月30日発売
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駄目男の奮闘。ともかく暑苦しいほどに駄目男の奮闘。
作者が心酔している新井英樹『宮本より君へ』を思わせる。
主人公に感情移入できるか否かで楽しめるかどうかが決まる作品。自分は感情移入・・・できちゃうね。うん。非常に恥ずかしながらできてしまうね。痛々しいくらいに「あわわわわ」ってなってしまうね。
あと、このマンガでよく話題になる「ちはる」について。彼女は悪女やらビッチやらと言われるけれど、正直リアルな、ちょっと自我の弱い女性だと思う。いるよ、実際にこういう子。内木に抱かれちゃう子。表面的には誰に対しても人当たりが良いから、駄目男もこういうのに惚れやすいし困ったもんだよ。ほんと、生きるってのはなかなか困ったもんだよ。
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風雲児たち(ワイド版) (1) (SPC)
- みなもと太郎
- リイド社 / 2002年3月1日発売
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多くの風雲児たちが現れ、歴史の変革を行った幕末…それは天下分け目の関が原より始まった。
江戸時代に活躍する風雲児の姿を描く歴史大河ギャグマンガ。楽しみながら知的好奇心を満たせるとともに、「自分も頑張らなければ」と闘志が湧いてくる。
もちろんこの本も編纂された「歴史」である以上、作者というフィルターを通した創作物で「事実」ではないのだが、創作者としてのドラマへの欲と資料などから推測される史実への忠実さとのバランスが、高い水準で保たれているよう感じた。
人間の営みの総体として「歴史」というものを捉える一貫した姿勢から、人間ドラマでありながら壮大な大河ロマンというダイナミズムを描くことに成功している。うん、ほんとこの絵柄なのに笑えるし泣けるんだ(失礼)。
各巻末のギャグ注も面白い試み。ギャグマンガの弱点である、時代に対する依存性の高さの克服の一例だろう。めっちゃ手間かかりそうだけど。
オムニバス。アルバム「東京」のジャケットを装丁にしたり、「サマー・ソルジャー」というタイトルの作品があったり、ソカベさんという登場人物がいたりと、サニーデイ・サービスをインスパイアしている。
中央線幻想というものがある・・・と思う。ロック、古着、雑貨、演劇、自分探し、六畳一間、同棲etc.
「自然体で自分のやりたいことをやってます」という幻想。
その裏に「そんなあてくしってば、素敵~」という自意識を伴っていることには意外と無頓着だったりする一時の夢。
この作品はそういった中央線幻想を内に強く孕んでいる。おしゃれで、気だるくて、刹那的で、情動的。
結構鼻につく。が、正直、そういったものに憧れる青臭さが自分のうちにもまだあるので、惹かれてしまう。あーでもやっぱちょっと恥ずかしさも感じてしまうな。という、葛藤のうちにある作品。
もうちょっと自分が若ければ素直に憧れてのめりこめただろうし、逆にもうちょっと年を経てたら一つの青春の偶像として追憶の中に位置づけられたんじゃないだろうか。
あと、なんかやたらエロかった。勃った。うん。勃ったよ。
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バクマン。 (1) (ジャンプC)
- 小畑健
- 集英社 / 2009年1月5日発売
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元漫画家の叔父を過労死で亡くしたサイコーが、憧れの同級生小豆との結婚のために、友人シュージンとともに漫画家を目指す。
今、一番好きじゃない作品。好きな人は僕の感想は読まない方が良いと思います。
えーーー・・・と、正直なんでこんなに評判が良いのか不思議。
確かに「週刊少年ジャンプ」というマンガ雑誌の最大手の内実暴露は衝撃的で興味深くはあるが(もっとも内実暴露も我田引水的だが)、このマンガ単体から読みのカタルシスを感じることが出来ない。随所から感じられる作者の物の見方(女性観や学力観など)にも反感を覚える。
「まんが道」と相対化して読んでいることもその要因となっているのだろうが、主人公たちの内的衝動や表現欲の弱さに嫌悪感を覚えるし、ご都合主義も非常に目に付く。
大場さんは「考えうる物語展開の中で読者が一番驚きそうなものを選択する」という話をどこかで読んだが、意外であればいいってものではないだろう。
あと、恋愛描写がリアリティに著しく欠ける。ジャンプの内幕がリアルなのに比して、ぽっかり浮いてしまっていて、バランスが悪い。普通中学生の頃にそんな約束しても、もっと魅力的な異性が互いの身近に現れたりで、なし崩しになると思うんだがね。こんなに必然性のない程度の結びつきなら。主人公もヒロインも他に異性のいない星にでもいるのかってほど、他の人間に惹かれないのが不思議。というか不自然。せめて危機ぐらいは描いて欲しい。童貞の妄想じゃないんだから。
・・・売れているのは、デスノートコンビっていうブランド力なのか?とかんぐってしまう。好き嫌いが分かれるという意味で、毒にも薬にもならないマンガよりはマシなのかもしれないが。
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ラヴァーズ・キス(文庫版) (小学館文庫)
- 吉田秋生
- 小学館 / 1999年8月7日発売
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鎌倉の県立高校を舞台に繰り広げられる男女六人の恋愛模様。
初読の感想としては、登場人物皆スペック高すぎだし、主要人物六人中四人が同性に対して思慕の情を抱いてるしで、ちょっと入り込めない感じがあったのだが、読み進めてゆくうちに、内面描写の丁寧さと構成の巧みさにすっかりやられてしまった。
まず内面描写だが、もはや吉田秋生さんのそれは職人芸の域だ。本当に10代後半から20歳前後の内面の揺れを、モノローグを駆使して見事に浮かび上がらせる。揺れ動き、刻々と変化する思春期の内面の模様を、まるでマーブリングでもするかのように掬い取る、とでも言おうか。
そして、何よりもこの作品を傑作たらしめているのは、視点人物を各話毎に変えていくことで、一つ一つの恋愛上の事件の多面性を暴く構成力の高さである。他にもこうした構成を持つ作品はあるが、ここまでの精度でそれを行った作品はそうそうないだろう。
同作者の「海街diary」もあわせてどうぞ。
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光の海 (フラワーCフラワーズ)
- 小玉ユキ
- 小学館 / 2007年1月26日発売
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人魚をモチーフとした短編集。完成度が高く、ハズレなし。
人魚というモチーフは共通させながら、家族、コンプレックス、友情、贖罪、同性愛とさまざまな物語を書き分ける作者の新人らしからぬ技量が際立っている。うまい!
淡白なほどにすっきりした絵柄も、物語の淡さにマッチ。感情を抑制しているようなベタ塗りの黒目が印象的。
乱反射する水面から人魚が顔をのぞかせている表紙のデザインも素敵。
拾いニワトリ・こっこさんが巻き起こす騒動と飼い主やよいを始めとする周囲の人々の成長。
マンガの中での動物は、書き手や登場人物の都合の良いように脚色されていることが多々あるが、こっこさんは脚色が少なく現実のニワトリそのまんまで、物語に都合よく動いてくれないのが面白い。後書きで書かれている作者のニワトリ飼育経験が反映されているのだろう。
作者が好んで使っていると思われる、下からあおるような構図で描かれる風景と佇む人の絵が綺麗で好き。
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バオー来訪者(文庫版) (集英社C文庫)
- 荒木飛呂彦
- 集英社 / 2000年6月16日発売
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秘密機関ドレスによって生態兵器「バオー」を埋め込まれた少年育朗と超能力少女スミレの逃亡劇。
ジョジョの荒木先生の初期連載作品。ジョジョでも頻出する、変わった擬音や演出がすでに見られ、作者独自の表現追求の姿勢が感じられる。
ストーリーや設定は完全に少年マンガのそれなのに、劇画調で描かれているのが面白い。
打ち切り作品なので話を大急ぎで畳まなければならなかったためか、地上最強の超能力者ウォーケンとのバトルがあっさりしすぎていて残念。
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シュトヘル (1) (ビッグCスペシャル)
- 伊藤悠
- 小学館 / 2009年3月30日発売
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「皇国の守護者」のコミカライズで高い評価を得た伊藤悠さんによる、「悪霊(シュトヘル)」と呼ばれた女戦士と文字を愛する少年・ユルール、それぞれの戦い。
二巻まで出ているが、いまいち物語の全体像が見えてこない。個々のエピソードは印象的なのだが、その間にぶつ切り感があるのかも。あと、一巻冒頭の現代日本の男女の高校生がシュトヘルとユルールの記憶を持っていた描写は何だったのだろうか。これの回収の仕方で物語の性格が大きく変わりそう。
戦闘描写は相変わらず上手い。筋肉の躍動と血の匂いが感じられる。シュトヘルの衣装である狼の毛皮も躍動感の演出に一役買っている。
ユルールの文字と文化への偏愛は、なんとなく作者自身の持つ文化観みたいなものを感じさせる。
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町でうわさの天狗の子 (1) (フラワーCアルファ フラワーズ)
- 岩本ナオ
- 小学館 / 2007年12月21日発売
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ほのぼのとした緑峰町に住む刑部秋姫は、同級生で天然イケメンのタケルくんに憧れるごく普通の中学生。ただ一点、天狗と人間のハーフであることを除いて・・・
怪力で車持ち上げたり、狸やら狐が人間に化けたりという非日常的な要素が、学校を舞台とする日常的な青春物語に落とし込んで描かれているのが面白い。
彼氏にフラれたヒロインを慰めるシーンを筆頭に、女の子同士の友情が特に素敵。金ちゃん変な髪形だけど良い奴だ!
恋愛模様は男性側の心理が隠されているのでもどかしい。分からんちん。もうタケルなんか知らん。瞬よ、秋姫を奪ってまえ。
最近、こういったシンプルな絵柄の少女マンガが増えている気がする。絵に対する抵抗感が少なく、男読者にも敷居が低いのでありがたい。
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ツタンカーメン(文庫版) (1) (潮漫画文庫)
- 山岸凉子
- 潮出版社 / 2002年6月25日発売
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考古学者カーター・ハワードはいかにしてツタンカーメンの遺跡を発掘したか。
おそらく綿密な下調べに基づいているのだろう。丁寧に登場人物の心境や境遇、苦労が描かれており、とうとうツタンカーメンの発掘がなされる場面では達成感を覚えた。
今後はテレビや本で見慣れているあの「ツタンカーメンのマスク」を見る目が変わりそう。
一方で、ツタンカーメンの精神体だろう「カー」という少年に代表される幻想表象は消化不良の感も。私は伝記として読むほうが楽しめた。
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猫背を伸ばして (GAC)
- 押切蓮介
- Bbmfマガジン / 2009年10月16日発売
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「でろでろ」の押切蓮介によるエッセイマンガ。
鬱屈とした灰色の青春と未だに苦悩ばかりの漫画家となった現在を描く。こんなに叙情的な表現も出来るのかと驚かされた。
「でろでろ」に通じるような恐怖体験も。
煩悶を繰り返しながらも、現実逃避や突発的一念発起でなんとかその場を乗り越える主人公の姿に共感。最後に見開きで描かれる母親の言葉なんか感動的ですらある。
「カラスヤサトシ」といい、福満の「僕の小規模な~」といい、これといい、最近比較的メジャーでない漫画家の鬱屈とした自意識を扱った作品が多く出ていることは、世相を反映しているようで興味深い。いずれの作品も面白いし。