巡礼

著者 :
  • 新潮社 (2009年8月28日発売)
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本棚登録 : 337
感想 : 63

社会から隔絶してしまった老人を中心に据え、その一生を家族関係、さらには社会の激変とともにリアルに描いている。最後に兄弟という親も子供も介在しない家族(と民間信仰、と言うべきか)による「救い」の訪れも描く。商業高校に合格した主人公を家族四人が「尾頭付き」で祝う場面は、ささやかで貧しいが「家族の幸福」というものが確かにあったことを示す。そこで「尾頭付き」をほぐして兄が弟に与える場面が、最後に訪れる救いの伏線のようにも思えた。
勝手な感想になるが、「老い」のありようを描こうとしたとき、橋本治が『恍惚の人』を思い返さなかったはずはないと思う。有吉佐和子は70年代初頭中流サラリーマン家庭での「老い」をめぐる騒乱を、昭子という「長男の嫁」中心の視点から、単焦点的かつリアルに描いた。いっぽう橋本さんは、迷惑な他者である「ゴミ屋敷老人」を複眼的に各時代のなかに位置付け、彼が家族を失う過程や、「家業とその跡取り」が意味を失っていくことなどと老人の内面を結びつけて、彼を理解しようと試みているように感じる。
80年代のコラム?で、橋本さんは「呆け」を描いたドキュメンタリー映画の評を書いていた。自分の記憶のかぎりでは、「老い」への基本的な視点はその評と変わっていないようにも思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年11月4日
読了日 : 2019年11月4日
本棚登録日 : 2019年11月4日

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