とても面白くて、多忙な中ちょこちょこと読めた。
映画化もされたようで興味があるのだが、あまり配信されていないようなので、観られる日が来るだろうか。
先日読んだ『あの映画みた?』で井上荒野さんを知り、考え方や、対談の中の一言一言に、「頭の良い方なんだろうなあ」と感じて興味を持ったのが本書を手に取ったきっかけ。サクッと要点をまとめていて、鋭さを感じた。
本書は父である井上光晴さんの『結婚』のオマージュだと知り、オマージュ元を読むことはないと思うが、読んでいたら本書を何倍も楽しめるのではないかと過ぎる。
以下、感想(多少のネタバレ有)
結婚詐欺師・古海に対しては妻を下に見ている点にイラッとする。苦笑
妻は美味しいものを知らず作れなかったから、良いお店に連れ回し舌を肥えさせ料理の腕を上げさせた、というような描写があった気がしたが、自身は祖父がきんつばを作ってくれたことが大切な思い出であり、好物であり、初音に作らせようとしたとき、すぐに出来上がらないことを分かっていないのは…?疲れているシーンだからか、錯乱を描いていたのか…?本を読むのに日があいてしまったため、こちらの理解が及んでいなかったり、勘違いかもしれない。
共謀する千石るりに対しては「女」感がダダ漏れで、被害者女性や元夫に電話番号や住所を特定されたり、虚栄を見破られていても本人は知らずに見栄を張り続けていたりと詰めも甘く、感情的な言動が多くて愚かな感じがとてもよく描かれている。
身近にこういう女が居たら迷惑だし関わりたくないし大嫌いだが、自分が恋愛において全く愚かな言動がないかと言われれば、私にだって多少なりとも千石るりの要素があり、少しは彼女に良い親近感も持ちたくなるのだが、それは、毎朝、新聞の投書欄を読むこととその内容への独特な解釈をする点(ユニークでオリジナリティがある)かもしれない。
しかしその解釈も自分の都合の良い方へと考えているだけかもしれないし、相手を小馬鹿にしている様子も否めない。人のことを素直に「羨ましい」だとか「憧れる」とか思えず、常に僻んでいるような女だ。殊更、元夫や古海に対してはあざとくもなんともない滑稽な駆け引きをして、ことごとく見透かされているのだから、読んでいるこちらが恥ずかしくなる!
しかし、本当に一番怖い登場人物は妻の初音だと感じた。結婚詐欺師の妻の座を得ただけあって、最も強かな女であるし、妊娠したと平気で嘯くし(その嘘を成り立たせるための嘘も平気でついて辻褄を合わせる訳だが、よく考えると普通の感覚を持ち合わせていないのだろうか)、夫相手には愛らしく振る舞い、夫との関係を匂わせてくる電話の女には、心の中で「豚」と名付けて、徹底的に無視をする(一度だけ反応してしまったことを本人も悔やんでいたが)。電話が掛かってくることも夫に相談しない。生い立ちも苦労したようだし、逞しい。
西加奈子さんの解説も良かった。
今回はテーマや構成が面白かったのか、次が気になって気になってスピード感を持って読めたので、割と好きな作家なのかもしれない。(解説者がサスペンスと言っていたが、普段サスペンスは読まないからこそのスピード感か?)
直木賞受賞作家なので、その作品も読んでみたい。
しかし、面白い本というのは夢中になれるので良いものだ。
平行して読んでいる本が全く面白くなくて(苦笑)雑念ばかり浮かび、何度も同じ行を読み直したりして、集中できていない自分がいるので、尚のこと面白く感じた。
好きな描写等の引用は後日編集作業を行いたい。
- 感想投稿日 : 2020年9月30日
- 読了日 : 2020年9月30日
- 本棚登録日 : 2020年9月11日
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