獣の奏者 3探求編 (講談社文庫)

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レビュー : 236
著者 :
cedarwoodsさん  未設定  読み終わった 

バリバリの理系小説じゃないか、というのが初読時の印象。近世を思わせる世界観に幻獣、失われた民というファンタジーの定番要素が詰まっているけれど、主人公エリンが獣の生態について仮説を立て、フィールドワークを経て綿密に立証する様は科学者そのものだ。

「科学者という立場」の難しさにも思いを馳せてしまう。無双の王獣軍を編成せよと命じる為政者セィミヤと、その生態の未知を理由に危険だと主張するエリン。それぞれの立場の苦渋のせめぎ合い。国防などというものが絡むなら尚更。

本作の前編にあたる「I.闘蛇編」「II.王獣編」では、小さな村から逃れざるを得なかったエリンが王都を知り、国の全貌を知り、権力闘争やがては内乱すら左右する運命に翻弄されていった。本作以降では内政に外交や領土問題、戦争が絡んでくる。王獣と心を通わせたばかりに、彼女は国防の要と見做されてしまう。

彼女が世界の広さに目覚める場面は明るい。彼女の純粋さはまた「分かっていることと分からないことの境界をハッキリさせ、踏み込める領域を見定める必要がある」という、これもすぐれて科学者的な態度に連なっている。
しかし、国を取り巻く不安定な情勢はエリンを待ってはくれない。

本作は科学、政治、戦争、階級差別、教育といった「人の世」の複雑さを描きながらも、結局はそれも地上の生命や大自然の営みからすればちっぽけなことだと読者に思い知らせる。
人ひとりの手に余る命題に、エリンは真っ向から対峙する。
探求はすなわち、彼女自身が自由を求める戦いでもある。

レビュー投稿日
2012年11月25日
読了日
2012年11月24日
本棚登録日
2012年11月25日
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