モルドールへの道を探すフロドとサムの旅路。踏破を許さぬ山岳地帯の描写が、見下ろし型のマップを思い出させる。火の国の勇者さえ越えられぬ生垣の原型はここにあったか。
旧版P.74。初読のときから長いあいだ、二つの塔とはこの挿絵が指すものであると思い込んでいた。モルドールの歯と呼ばれる二つの堅固な塔、かつてゴンドールがサウロンの再起を憂いて築かれた。
今更語るまでもなくさまざまなものの祖であるからして、ゲームブックにその影響があることも自明であろう。今回、かつてなくそのことを感じてしまったのはシェロブのシーンで、ガラドリエルの玻璃瓶を持っているかどうか、持っていたとして使うかどうかで岐路が分かれるなどという妄想が働いたせいかもしれない。ガラドリエルは予言めいた助言をし、フロドは危機に陥るまで玻璃瓶のことを失念していた。いかにもなゲームブックシチュエーションだ。
シェロブといえば初読の頃は大蜘蛛くらいの印象で、ウンゴリアントを知るまでこの印象は改まらなかった。ウンゴリアントは二つの木の樹液を吸いあげてモルゴスに脅威を覚えさせるほどになった魔の存在であり、世界の外、原初の闇からやってきたとも言われている。シェロブはその末裔である。今回作中でドラゴンよりも丈夫な外皮を持つことが明示されていたことに気付き、瞠目した。サムがシェロブに手傷を負わすことができたのはシェロブの自重によるもので、エルフが鍛えた鋼をもったベレンであろうともシェロブを傷つけることは叶わなかったであろうとも明言されている。
腹部に腐敗臭を放つ光を宿すとあり、巨神兵オーマを思い出すなど。玻璃瓶が放った光がシェロブの内部で反射し、複数の目をつぎつぎと破壊していくさまも、ナウシカのクライマックスを思い出させた。
辺境警備に登場した獣虫もきっと、シェロブをモチーフとしたに違いない。かつては思いいたらなかったが、シェロブのディティールを読めば一目瞭然であった。
そしてサム。頼りになる従僕であることはたびたび描写されてきたが、それ以上のことを、使命の一員であることを自覚するに至る。
- 感想投稿日 : 2024年7月14日
- 読了日 : 2024年7月14日
- 本棚登録日 : 2024年6月17日
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