贖罪〈上〉 (新潮文庫)

3.96
  • (71)
  • (52)
  • (63)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 570
レビュー : 52
制作 : Ian McEwan  小山 太一 
chibipikanohonさん ヨーロッパ   読み終わった 

読み終えたとき、私は憤りと感動と衝撃でひどく混乱した気持ちになってしまった。作者に騙されたことに傷ついたが、そもそもこれはお話、フィクションだとわかって読んでいたのだから、「ひどい!騙された」とショックを受けるのはそもそも変なのだ。そんなことでイチイチ怒ってたら物語なんて読めない。にも関わらず、私は本当に動揺した。いや事実と混同したのではなく、ちゃんとフィクションだと頭で理解していたのに、私はこの物語にのめりこんでいて、ロビーもセシーリアもブライオニーも何とか過去を乗り越えて、幸せになって欲しいと願っていたのだ。
読後、3日経つが、物語とは何だろうと考えずにはいられない。この本にはいくつかの仕掛けがあるが、メタフィクションにありがちな実験性がみじんも感じられない。上巻のきらめくような豊かな表現と下巻の苦痛に近い凄まじい表現と、普通に文学として素晴らしい。特に上巻はある1日を人物の視点を変えながらゆったりと描く。全然時間が進まなくてびっくりしたが、その悠々さに気持ちよく身をゆだねていると、上巻後半の不穏な結末に一気に持っていかれる。下巻は一転、第二次大戦のフランスからのダンケルク撤退を描くが、特に退却してきた兵士たちを迎える病院の場面にさしかかった時、手が止まり何日か読む気がしなかった。辛いからと言って飛ばすわけにもいかず、ここを乗り越えないとと意を決して再開したが、泣きながらうめきながら必死に読み進んだ。言葉というのは恐ろしい。映像や写真はケガや死体をある程度「物体」として見ることができるが(もちろんテレビや映画レベルなので本当にすさまじいものもあると思うが)、文章は否応なく私の脳に入ってきて勝手に想像させるのだ。他の本で読むのが辛い場面にあたったとき、ダメージをできるだけ減らそうと私はよく心の動きを止めて読もうとする、そしてそれはまあまあ成功するが、贖罪はダメだった。本当にうめきながら読んだ。
まとめきれないが、物語とは語りとは騙りとは何か。作者とは何か。小説の深淵を考えるとともに、普通に登場人物たちの幸を願ってやまなくなる本。

レビュー投稿日
2017年11月15日
読了日
2017年11月15日
本棚登録日
2017年10月13日
1
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『贖罪〈上〉 (新潮文庫)』のレビューをもっとみる

『贖罪〈上〉 (新潮文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

いいね!してくれた人

ツイートする