ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)

  • 新潮社 (2004年9月29日発売)
3.75
  • (139)
  • (252)
  • (250)
  • (17)
  • (8)
本棚登録 : 2492
感想 : 271
4

 白黒の鳥、飛べない鳥、二本足で歩く鳥。『ペンギン』という動物はとても愛嬌があり、皆さん大好きなのではないでしょうか? 動物園で見られるペンギンは、多くても十数羽くらいですが、実際に生息しているキングペンギンともなると、数万羽という膨大な群れで暮らすこともあり、写真を見ると圧巻されます。しかし、この話の中に登場するペンギンは、群れの中からはぐれてしまった、孤独なペンギンです。
 ヴィクトルはウクライナ・キエフ市内に住む小説家。小説家といっても、書くのはもっぱら短編。短編だけでは食べてゆくことのできない、しがないもの書きです。同棲していた女性が出て行ったのは一年前。一年前から代わりに、部屋に住んでいるのは一羽のペンギン。ペンギン・ミーシャは寂れた動物園から貰い受けた憂鬱症の皇帝ペンギンなのです。
 ある日、書き終えた短編を新聞社に持ち込んだヴィクトルは、一風変わった執筆を持ちかけられます。それは、まだ生きている著名人の追悼記事。通称『十字架』。『十字架』は当人が亡くなって、初めて掲載されるのです。『十字架』のキャストを探すため、様々な新聞を買い込み、ノートをつけるヴィクトル。しだいに『十字架』のキャストは編集長から渡される資料に書かれた人物になり、さらに資料にも赤線が引かれるように…
 物語は一貫として、陰鬱な雰囲気に包まれています。ことに、自分の身に暗い影が忍び寄る中でも、淡々と仕事をこなしていくヴィクトルの姿には、社会からはみ出てしまった、小説家という職業のもの悲しさ、孤独さを偲ばせます。彼は、成り行きで預かることになった4歳の少女ソーニャ、ベビーシッターのニーナ、警官セルゲイ、ペンギン学者のピドパールィ、そしてミーシャ… 様々な人(?)と関わるのですが、どの人もヴィクトルの心の隙間を満たす存在になれないのです。憂鬱な売れない小説家。部屋を街中をさまようヴィクトルの姿は、群れから取り残されたペンギン、そのもの姿のではないでしょうか。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2006年8月25日
本棚登録日 : 2006年8月25日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする