マドンナ (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2005年12月15日発売)
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感想 : 615
3

【マドンナ】
妻子持ちの春彦が、配属されてきた知美に恋情を抱いてしまう話。
ライバルは部下の山口。
中年男のせつない気持ちを綴りつつ、妻の偉大さを思い知らされる。
お見通しかつ、受容する大いなる妻。
真のマドンナは知美ではなく、春彦の妻なのかもしれない。
個人的に春彦と山口が上下関係を忘れて殴り合うくだりがすき。

【ダンス】
ムーミンに出てくるスナフキンのような浅野の、根無し草のような生き方に憧れた。
しかし会社という大きな歯車の一部であることを思い知らされるシーンでは、ある意味胸がすっとした。
主人公の芳雄が部長と取っ組み合いになるところは「マドンナ」の春彦と山口を彷彿させた。
俊輔は結局、ダンスの道に進むのだろうか?

【総務は女房】
どんなに敏腕な営業マンでも、女房を陥落させることはできない。
総務は女房というタイトルが、のちのち意味深になっていく。

【ボス】
同い年で中途採用された浜名陽子の部下となった茂徳。
彼は、営業部の慣例を次々ぶち壊しつつ、業績を下げない浜名に対し、欧米スタイルをやめて郷に入っては郷に従え、と何度もぶつかる。
実は、浜名には夫とふたりの子供がおり、妻として部長として、おそらく母としての役割をきっちり、慇懃たる笑をたたえてこなしているのだった。
茂徳は臍をかみつつ、そんな彼女の意外な一面を垣間見て、そのシーンでストーリーが終わる。
完全無欠の女傑のような浜名の、可愛らしい一面というのがなんというか、男性目線の描き方だなあという印象。

【パティオ】
妻と死別、また離別した独居老人の生き様を描いた本編。
45歳の信久がオフィスから毎日眺めている謎の老人「おひょいさん」と年老いた父を重ね合わせ、あれやこれやと気をもんでしまう。
おひょいさんが好んだ藤棚のあるパティオ、そして父が生きがいとしているであろう家庭菜園の場が奪われてしまいそうになり、信久は憂い、激昂する。
しかし老人達は若かりし頃の自尊心や、自立心を捨てておらず、心の拠り所は自力で別に探すということを知らされる。
(70代から見たら)若輩者の信久の優しさと、優しさゆえの傲慢さに共感した。
私も独居老人が寂しいものと決めつけていたけれど、彼らは老いを受け入れながら、年齢だけにとらわれない生き方を模索してるのだろう。
もちろん寂しくてむやみに他人に話しかける老人にもよく捕まるのだけど…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年5月6日
読了日 : 2018年5月6日
本棚登録日 : 2018年4月26日

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