加賀刑務所では通称「しゃくぜん」と呼ばれる釈放前教育に力を入れ始めており、仮出所予定者に対し、その2週間前から兼六寮という専用の寮で一人暮らしをしたり、私服刑務官がついた状態で外出をするなど、出所後の生活に近い形で過ごさせる更生プログラムを実施していた。
前作のどんでん返しは印象的だったし、読者はそれが頭にあるわけだから、今回はそれ以外の部分で読ませてくるんだろうなぁと思っていたので、最後の最後でまた衝撃。いや、ほんとにすごい。本作から読んでしまうとそれは味わえないので、必ず前作「看守の流儀」から読んでほしい。しかし今回も囚人たちとのやりとりは心に響くものが多かったし、前作と比べると、ちょっと職務の域をこえて刑務所外の出来事も多い。こういうところからも、前作との違いは感じていたのに…なぜ気づかなかったんだ自分!
2025年1月3日
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『ブラックナイトパレード』DVD通常版 [DVD]
- 福田雄一
- 東宝 / 2023年5月17日発売
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23/9/16 WOWOWで放送。2022年、日本映画。主演:吉沢亮、脚本:福田雄一&鎌田哲生、監督:福田雄一。
就職活動もうまくいかず、普段から不真面目なコンビニのバイト仲間の田中皇帝(中川大志)にもミスを押し付けられるなど、何から何までうまくいかない日野三春(吉沢亮)は、クリスマスの勤務日、廃棄しなければならない売れ残りのクリスマスケーキを持って帰ってしまう。帰りに通りかかった屋台の謎の男に「悪い子」だと言われ、突然現れた怪物に飲み込まれ、気が付くと北極にいた。そこはサンタクロースハウスという、世界中から届く子供からの手紙を仕分けしたり、良い子にはその子が望むプレゼントを、悪い子にはがっかりさせるようなプレゼントを選んだりする会社だった。
原作がある作品だからなのか、いろいろ伏線というか、話が広がりそうなところが何も広がらないまま、設定が生かし切れていないまま終わってしまった感じ。なぜ日野にだけクネヒトの顔が見えるのかとか。山田くんのルドルフのシルエットとかすごくかっこよかったのに。玉木宏さんは声だけだったけどすぐわかった反面、どこにムロさんいたのか最後までわからず。
2024年12月30日
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ドクター・デスの再臨
- 中山七里
- KADOKAWA / 2024年5月31日発売
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ALSに罹患していた母親がネットを通じて安楽死を依頼していた…少女からの通報で事件を知った警視庁捜査一課に衝撃が走る。あのドクター・デスの手口に非常に似ているが、依頼者たちが用意していたのは200万円。ほぼ実費だけで請け負っていたドクター・デスとは何かが違う。共犯なのか、模倣犯なのか。捜査に行き詰った犬養は、ドクター・デスとして逮捕された雛森めぐみに直接訊くことを思いつく。
犬養隼人シリーズ第7作だが、『ドクター・デスの遺産』の続編。犯人の行動は元犯人に…という裏の手を使ったつもりの犬養たちだったけど、あまりにもうかつすぎないかなぁというか、犬養さん、女どころか野郎の嘘も見抜けてないという。あと、最後ドバイに行くのにコントラバスケースの中に人間は…無理でしょう(苦笑)。今回の他作品とのつながりは、雛森めぐみが交換条件として御子柴先生の弁護を受けようとするところ。そっちは叶わなかったけど、これ実現してたら(というか、また裁判することになるか)御子柴先生勝てるのか興味ある。
2024年12月12日
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こわれもの (徳間文庫)
- 浦賀和宏
- 徳間書店 / 2013年5月1日発売
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漫画家の陣内龍二は、婚約者の里美を突然の事故で亡くしたことで自暴自棄になってしまい、連載中の人気漫画『スニヴィライゼイション』の大人気キャラクター・ハルシオンを、とても必要とは思えない場面で突然殺してしまう。読者からはクレームの手紙が山ほど届いたが、その中に一通、里美の事故を予測していたかのような手紙があった。
きっと神崎に何かあるんだろうとは思いながら読んでいたが、伏線を伏線と思わず読んでいて、正体までは気づかなかった。そして最後まで入れ子構造になっていて、こういうところもうまいなぁと。しかし人気キャラクターを殺してしまうと、それがいくら作者の創作物とはいえ、殺害予告まで届いてしまうという怖さ。本当にあるんだろうなぁ、こういうの。
2024年12月5日
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看守の流儀 (宝島社文庫)
- 城山真一
- 宝島社 / 2022年1月8日発売
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元歌手や暴力団員、末期の病気を抱えた男……様々な人物が収監されている加賀刑務所では、代り映えのない毎日にみえて、様々な出来事がおこっている。
章ごとに主人公が変わるが、どの看守も受刑者の罪よりも人間性、そして外に出たときのことを考えて動いたり思い悩んだりする者が多く、印象が変わったというか目からウロコというか。その中で、全てを見渡しているような、事件についても背後で密かに解決に導いているような謎のポジションにいる警備指導官の火石司の存在。エリートであることは間違いないが、それ意外に何か秘密が…と思っていたら、案の定というか、やられたーーー!こういうところも先入観というか偏見で見てしまっているんだなぁと思い知らされる結末。おもしろかった。
2024年11月21日
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法廷遊戯 通常版 [Blu-ray]
- 永瀬廉
- TCエンタテインメント / 2024年6月12日発売
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24/07/20 WOWOWで放送。2023年、日本映画。主演:永瀬廉、脚本:松田沙也、監督:深川栄洋。
ロースクール時代に流行っていた、実際に裁判官役、そして告訴する側とされる側に分かれて意見を戦わせる無辜ゲーム。卒業して2年がたち、弁護士として働き始めたセイギ(永瀬廉)のもとに、一足先に司法試験に合格し、裁判官役をよくやっていたカオル(北村匠海)から、最後の無辜ゲームに誘われる。しかし現場についてみるとそこには何者かに刺されて絶命しているカオルと、2人の同級生・ミレイ(杉咲花)の姿があった。
実はものすごく練られた話なのに、序盤の学生時代の「無辜ゲーム」が安っぽすぎるというか、そこが脱落しそうなくらいつまらないのがもったいない。これ、序盤カットでいいんじゃないだろうか。小説で読むべきだった?後半になるにつれて、なるほど登場人物たちの裏の顔が次々と明るみになり、真相はそういうことかと引き込まれるものもある。いや、でもよくカオルはセイギと友人関係を続けられたなと思うけど。エンタメ的な感じかと思いきや、思ったより全体的に暗い真面目でダークだったのも意外だった。
2024年11月14日
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怪物の木こり DVD通常版 [DVD]
- 三池崇史
- エイベックス・ピクチャーズ / 2024年4月24日発売
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24/10/26 WOWOWで放送。2023年、日本映画。主演:亀梨和也、脚本:小岩井宏悦、監督:三池崇史。
弁護士の二宮彰(亀梨和也)は、実はサイコパスである。もうすぐ荷見映美(吉岡里帆)と結婚し、義父の弁護士事務所も継ぐ予定になっているが、自殺したと処理された義父も、実は二宮が殺していた。自分の思い通りに進んでいたある日、二宮は駐車場で謎の覆面を被った者に斧で襲い掛かられ、頭に重傷を負う。その検査の結果、自分の脳に初めて「脳チップ」というものが埋められていると知った二宮は、友人で同じくサイコパスの医者・杉谷九朗(染谷将太)に相談し、自ら謎の覆面に復讐しようと動き出す。
小説は昔に読んでおもしろかった記憶があるものの、三池監督ということであまり期待していなかったが、そこそこ楽しめた。今まで亀梨くんの演技ってほとんど観たことなかったけど、サイコパスぴったり…というのは褒め言葉にならないか(^^;演出が不必要にどぎつい感じもなかったのも良かった。
2024年11月9日
司法解剖がテーマのテレビ番組「医学の窓」に出演した光崎藤次郎は、予算の問題について「世の中の問題の九割はカネで解決できる」と身も蓋もない言い方をしたことで炎上してしまう。それだけでなく、翌朝放送局のホームページには「親愛なる光崎教授殿」で始まり、「これからわたしは一人だけ人を殺す。絶対に自然死にしか見えないかたちで」と述べた犯行予告が書き込まれてしまう。
やはり読みとばしてしまっていたヒポクラテスシリーズ第4弾。光崎が助教時代の出来事も絡む、重要な回。犯行予告が書き込まれたことで、一見問題なさそうな死体であっても、万が一を考えて古手川が解剖するように促す→真琴が協力→光崎が解剖→新事実発見という流れ。ちょっと強引すぎて、実際にはこうはならないだろうなぁとは思うけど、解剖しなけければこんなにも真実が見落とされるのかと思うとそれは恐ろしい。今回違うのは、いつもは解剖することにしか興味のない光崎が、遺体となる前のその者の様子を気にするそぶりを見せるところ。最後には光崎の解剖室外の様子も見られて驚く場面も。シリーズ第1作以来の津久場の登場もあり。
2024年11月5日
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ゲノムハザード ある天才科学者の5日間 [Blu-ray]
- キム・ソンス
- Happinet(SB)(D) / -
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22/07/23 WOWOWで放送。2014年、日韓合作映画。主演:西島秀俊、脚本・監督:キム・ソンス。
科学者である石神武糸(西島秀俊)は帰宅してすぐ、床にたくさん並べられたろうそくと妻・美由紀の死体を見つけるがその直後、自宅に死んでいるはずの妻・美由紀から「実家に帰っている」という電話を受け、混乱する。すると今度は警察を名乗る男たちの訪問を受け連行されるが、途中で警察ではないと気付いた石神は逃亡。逃げる際中に出会った韓国人記者であるカン・ジウォン(キム・ヒョジン)と共に妻の行方を探そうとするが、妻の実家に行っても自分のことは知らないと言われ、自宅に帰ると知らない家族が半年も前からそこに住んでいると言われるなど、よくわからない出来事が続き、次第に自身の記憶は曖昧になっていく。
テーマはおもしろかったと思うのに、途中でストーリーについていけなくなったというか、主人公同様意味がよくわからなくなっていったというか。メインキャストの韓国人記者の演技が棒読みすぎなのが気になって入っていけなかったのもあるかも。
2024年10月27日
新聞記者として働く相田春美は、「朝陽学園」という児童養護施設で育った。同じ施設で育った高倉陽子が息子のために描いた絵本「あおぞらリボン」で日本絵本大賞新人賞を受賞した際、陽子から「ごめんなさい!あれは、はるちゃんの大切な話なのに……」と電話がかかってくる。
久しぶりにこの作者の話を読んだ気がするが、毒気が無くてものたりなかったというと失礼か(^^;それを抜きにしても、あんまりおもしろいとは思えなかった。
2024年9月16日
今年に入ってからミイラ状態の死体の解剖が続いており、不思議に思っていた真琴やキャシーは、法医学教室にやってきた古手川刑事からも、引きこもり状態でミイラ化した遺体が見つかった事件の話を聞く。古手川は、検視官には司法解剖の必要性は無いと言われたものの、納得できないためため真琴やキャシーに協力を求めにきたのだった。
シリーズ第5弾(あれ?第4弾読み飛ばした??)。今回は老々介護や引きこもりの中年世代の子供を抱えた高齢者が絡む事件の連続で身近に感じやすいものになっており、読みやすい。連作短編集のような感じだが、最後には一応“犯人”らしきものにもたどりつく展開。でも、問題提起作としての面が強いかも。今回光崎は運ばれてきた遺体を黙々と解剖する立場に徹しており、どちらかというと真琴らがいかにして事件性を見出し、法医学教室へ遺体をもちこむかがメイン。
2024年10月6日
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不審者 (集英社文庫)
- 伊岡瞬
- 集英社 / 2021年9月17日発売
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自宅で校閲の仕事をしながら夫の秀嗣と5歳の息子・洸太、そして義母と治子と暮らす折尾里佳子。平凡ながらも幸せに暮らしていた生活は、秀嗣が自分の兄として20年来音信不通だった優平を連れてきたことから徐々に壊れ始める。毎日のように折尾家に現れるようになった優平はいつしか居候まではじめ、里佳子の日常は浸食されていく。なぜ今さら優平はやってきたのか、最近認知症の症状が出始めた治子にとりいり、財産を手にいれるためではないのか?
タイトルも相まって、完全に騙された。なるほど、そういうことかー!主人公の側からすると、優平の嫌な感じがひしひしと伝わってきていたため、優平が何のために家にやってきたのか一緒になって疑心暗鬼になっていた。まさかそんな展開になるとは。序章をはじめ、伏線回収も見事。
2024年9月15日
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君の膵臓をたべたい DVD通常版
- 月川翔
- 東宝 / -
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23/7/15 チャンネルNECOで放送。2017年、日本映画。主演:浜辺美波&北村匠海、脚本:吉田智子、監督:月川翔。
クラスの中ではさえないポジションにいる僕(北村匠海)は、盲腸で入院していた時、病院で「共病文庫」と書かれた文庫を拾う。しかしそれは実は同じクラスの美少女で人気者・山内桜良(浜辺美波)が密かにつけていた闘病日記だった。桜良は膵臓の病気を患っており、近いうちに死ぬという。親友にも話していないというその秘密を共有してしまった僕は、彼女が死ぬまでにやりたいことに付き合っているうちに、彼女にひかれていく。
桜良の言動が、可愛くてモテ女子にしか許されない類のものばかりというか、モテない男子が考え出す妄想女子すぎてありえない感じなのが鼻につくのは自分が女だからか。台詞が不自然で非現実すぎるのと、最後のデートに向かう途中で通り魔に刺されるって、あまりにもご都合主義すぎないかとシラけ気味なのに、北村匠海の演技でうっかり泣かされる。なんか、いろいろ残念。
2024年9月14日
いまや数えるほどしか住人が残っていない南三陸町の仮設住宅の中の一室で、南三陸町役場建設課土木係の掛川勇児という男の死体が発見される。後頭部を鈍器で殴られるという明かな他殺体だったが、部屋は完全な密室状態であった。笘篠誠一郎と蓮田将悟も現場へと向かい、そしてその周辺の聞き込みの最中、ケアマネージャーとして働くかつての幼馴染・大原知歌と思わぬ再会を果たす。
宮城県警シリーズ第3弾。今回は笘篠より蓮田がメイン。南三陸町に生まれながらも、仙台市へ転校していたことにより、東日本大震災で家族を失うことはなかった蓮田と、身内を多数亡くした幼馴染たちとの再会から物語が始まる。地元で捜査すると、聞き込みをするたびに、対象者と違って自分は家族を誰も失っていないという変な負い目を感じずにはいられない蓮田。なるほど、確かにそういう複雑な心情を抱えている人間もいるんだろうなぁと気づかされる。そしてさらに警察官としてかつての仲間達を疑わなければならない状況もあり、いつもは喜ぶ証拠の発見もそうはいかず、読んでいてもなにかと苦しい感じは続く。震災が変えてしまったものはあまりにも大きい。
2024年9月6日
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あなたが誰かを殺した
- 東野圭吾
- 講談社 / 2023年9月21日発売
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別荘地で起きた連続殺人事件は、犯人の桧川大志が「鶴屋ホテル」でディナーを食べた後、自らの罪を告白して警察を呼ぶよう促したことからあっけなく終結した。しかし桧川は自らが犯人であることは認めるものの、その動機や詳しい犯行内容については決して明かそうとしない。そのため、納得のいかない遺族たちは自分たちで検証会を開くことにする。それぞれの家族は部外者を一人連れてきても良いことになっており、金森登紀子の紹介で加賀恭一郎も参加することになる。
加賀恭一郎シリーズ。久しぶりに変な仕掛けもなく正統派なミステリーで(とはいえ後から一部読み直すと、ずるい書き方は結構ある)、最後まで真犯人がわからず次が気になって読み進んだ。検証会の進行役を加賀がつとめることで真相が明かされていくが、なるほどそういう小さなことから突き詰めて真相に近づいていくのかと警察の(加賀恭一郎の)すごさを見せつけられた感じだった。
2024年8月30日
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アイ・アム まきもと ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]
- 水田 伸生
- Happinet / 2023年2月17日発売
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23/12/24 WOWOWで放送。2022年、日本映画。主演:阿部サダヲ、脚本:倉持裕、監督:水田伸生。
市役所の「おみおくり係」で一人で働く牧本は、主に孤独死した人々を無縁墓地に弔う仕事を担っているが、故人の親戚を探して遺体の引き取りを頼んだり、自分のお金で葬式を挙げたりと業務以上のことをして一人ひとりへの対処に時間をかけてしまい、職場は未納骨の骨壺が溢れかえり、警察の神代亨(松下洸平)からも遺体の引き取りの遅れで毎回怒られる始末。それでも人の話を聞かない、察しが悪く空気が読めない、言葉の裏がわからない牧本は自らの仕事に誇りをもち、一生懸命に向き合っていた。しかし新しい上司である小野口(坪倉由幸)が赴任してきたことにより、「おみおくり係」は廃止を言い渡されてしまう。
自分の働く場所がなくなるかもしれないと知っても、いつも通り(いつも以上に?)故人である蕪木(宇崎竜童)の身内探しに一生懸命になる牧本。その空気の読めなささから数々の誤解も生むが、そのまっすぐな姿にどこか惹かれるものもあり、蕪木の娘である津森塔子(満島ひかり)とわかりあえたのはこちらまで嬉しくなったのに……「はぁ!?」とリアルに声まで出してしまった展開。容赦ない、悲しい。最後の仕事でたくさんの人に思いが通じたのは良かったけど、それに対して牧本の元には神代だけというのが切なすぎた。最後に牧本に感謝するたくさんの霊が集まってきたのが救い。
2024年8月17日
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252 生存者あり [Blu-ray]
- 水田伸生
- VAP,INC(VAP)(D) / -
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24/05/03 チャンネルNECOで放送。2008年、日本映画。主演:伊藤英明、脚本:小森陽一・斉藤ひろし・水田伸生、監督:水田伸生。
震度5強の地震から数日経ち首都圏が落ち着きを取り戻したころ、地震の影響で発生した巨大な雹が突然空から降り注ぐ。パニックになりつつも室内や地下に逃げ込んだ人々だったが、同時におこった高潮によりお台場や新橋は津波に飲み込まれ、家族と待ち合わせをしていた元レスキュー隊員である篠原祐司(伊藤英明)も地下鉄新橋駅に閉じ込められてしまう。多くの人物が津波に飲み込まれて命を落とす中、篠原は生き残った数少ない人々を誘導しながら、なんとか外に助けを求める方法を考える。
人の頭に落ちたら即死くらいの大きな雹の落下、高潮による津波、そして大型の台風がこれだけ一気に、予想も間に合わずにいきなりやってくることはまず考えられないように思うが、もし起こってしまったらの話。閉じ込められてしまった側が描かれるとともに、現在もレスキュー隊員として働いている祐司の兄・静馬(内野聖陽)の側からも描かれている。このレスキュー隊員の、目の前にいる人を助けたいのに、隊長である自分の指示ひとつで部下が犠牲になりかねない極限状況で判断しなければならない辛さ、祐司もそうだけど、助けられなかった人をいつまでも忘れられない苦しみ。見ていて一緒に辛くなるけど、しっかり描かれていてただの感動物語ではないところに好感をもった。ちょうど最近やっていたブルーモーメントでもそうだったけど、予測の数分の精度が現場にとってどれほど重要なことかが思い知らされる。実際には撮影できないため、多くの場面でCGが使われているはずだが、これ2008年の映画なんだよね?と思わず確認したほど、違和感なくチープさもなく良かった。ただ、最後に伊藤英明が隊員をかついでくるシーンだけはリアリティが感じられず、「映画だなぁ」と思ってしまった。他は良かったのにな。
2024年8月11日
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諦めない女 (光文社文庫)
- 桂望実
- 光文社 / 2020年10月8日発売
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スーパーで買い物をする少しの間に、6歳の少女・沙恵は姿を消してしまった。母親の京子は半狂乱になって探し回るが見つからないまま。やがて12年の時が過ぎ…フリーライターの飯塚桃子はこの事件について本にしようと、関係者に取材して話を聞いていく。
沙恵が行方不明になった第1章からストーリーが始まるが、第2章になったところで突然18歳の沙恵が取材対象になっており、誘拐されても生きていたことが発覚。これだけでもうまいなぁと思ったが、その後も意外なところから展開を読者に知らせる形で、構成に感心した。娘の無事を信じるが故におかしくなってしまった母親、なんとか次に進むためにけじめをつけて新しい人生を歩むことにした父親、そしておかれた状況の中で必死に生き延びた少女と、当然の成長&母親とのぶつかり。どんでん返しとはいわないまでも、最後まで意外な展開があり。おもしろかった。
2024年8月9日
大学を卒業しても正社員としては就職できず、派遣として文具メーカーに勤務していた水越愛は、3年働いた後、契約満了であっさり仕事を失ってしまう。日雇いバイトで食つなぐも、あれよあれよと貯金は底をつく。心配して連絡をくれる雨宮からも逃げるようになり、愛の生活はどんどん追い込まれていく。
女性の貧困を扱った作品。派遣で更新されずあっさり無職→家賃が払えなくなり漫画喫茶を転々と。ここまではそこまで男女差は無さそうだけど、ここからなんとか食いつなぐため、年齢的にギリギリな「女」を売らざるをえない状況へ。今までこういうのは正直自己責任でしょうと思っていたけど、炊き出しの場で取材していた学生の言葉にハッとする。確かに女だからこそこういう方向に転がりやすくなっている社会にも問題はあるのかもしれないと思わされる内容だった。
2024年8月2日
オカルト専門のフリーライターとして活動している私は、人生初の一軒家を買おうとしている柳岡さんから、その物件について相談を受ける。環境も築年数も希望通りだが、ただ一つ、間取りに不可解な点があるのだという。建築については全くの素人である私は、大手建築事務所に勤める設計士かつホラー・ミステリー愛好家の栗原さんに相談することにした。
間取りの不可解な点については誰もがすぐに気づく。だが、そこからの想像力というか、間取りだけでここまでストーリーがよくふくらむなぁと。そして結局、その膨らんだ想像以上の現実でした、という話。まぁ実際にはありえないだろうけど、読み物としてはなかなか無いタイプでそういう意味ではおもしろく読んだ。
2024年7月12日
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SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる
- イ・ジェハン
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24/07/07 日本映画専門チャンネルで放送。2023年、日韓合同製作映画。主演:山下智久、脚本・監督:イ・ジェハン。
崖っぷちながらなんとか作品を描き続けてきた漫画家の泉本真治(山下智久)は、ついに自分の作品が映画化されるチャンスが巡ってきた矢先、急性緑内障発作を起こして倒れ、視力のほとんどを失ってしまう。自暴自棄になり、自宅マンションから身を投げようとしたところ、間一髪で相田響(新木優子)に助けられる。彼女はネットで泉本の作品を楽しみにしていた読者で、突然更新されなくなった泉本の様子を気にかけており、作中に出てくるアイテムや風景から、泉本が住んでいるであろう場所を探し当てていた。しかし彼女は生まれつき耳が聞こえないため話すこともできず、泉本は誰に助けられたのか、何者が傍にいるのかもわからず混乱する。
脚本があまりにも残念な気がする。目が見えない人間と、耳が聴こえず話せない人間がどうやってお互いを知り、理解し、どうひかれあって恋人同士になったのか完全にすっ飛ばされている。いや、一番気になるのそこなんだけど。最後の方にちらっとしか出てこないが、実質、最初は携帯アプリでコミュニケーションとるしかないよね?そして途中から出てくる高杉真宙のキャラの存在意義が全くわからないし、目的もよくわからない。そして緑内障発作で視力がなくなったのに(誤診で結局は脳腫瘍)、響がお金を得て角膜移植で助けようとしているのはつっこむべき?
2024年7月13日
練馬の図書館で出張カウンセラーをしている美谷千尋(みたにちひろ)はある日、女子高生である今道奈央と話す。彼女には自殺願望があり、苦しまずに死ねる方法を知っているという〈首絞めヒロ〉のウェブサイトにアクセスしていた。千尋はそのサイトに掲載されていた「青天井の遊歩道」というタイトルの小説を見て愕然とする。〈首絞めヒロ〉とは、自分にとって“患者”第1号だった間宮ヒロアキが書いていた小説だったのだ。
途中まではグイグイ読み進んだが、最後で失速。カウンセラーにしては行動があまりにもおかしいというか、問題ありすぎでは?とあまり好感ももてなかったので、そういうことかと納得は納得。ただなんだろう、種明かしがスマートでないというか、わかりづらい。こういうことなんだろうなとニュアンスはわかるけど、もうすこしわかりやすく書いてほしかった。
2024年7月5日
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逆転美人 (双葉文庫)
- 藤崎翔
- 双葉社 / 2022年10月13日発売
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誰もが羨む美貌をもつシングルマザー・香織。しかし彼女に言わせると、その美貌で得だったことなどほとんどなく、幼少期からいじめや犯罪に巻き込まれ続け、他人よりも不幸な人生を歩んできたという。そして現在も、そのせいで娘とともに犯罪に巻き込まれてマスコミにとりあげられ、渦中の人物となってしまっている。そのため香織は手記を発表し、これまでの人生の真実を語り始める。
帯はついていなかったものの、「伝説級のトリックを見破れますか?」というセールス文句は見てしまっていたため、構えて読んだところもあったと思う。それでも真相を知ると、いやぁ、すごい。ほんとにすごい。思いついたとしても、よくこんなに自然に溶け込ませられるものだと感服。話自体もおもしろかったし、(やっぱり美人が損ばかりなんて嘘!・笑)、満足。やっぱり小説は紙で読まないとね!
2024年6月7日
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ファミリー・レストラン (実業之日本社文庫)
- 東山彰良
- 実業之日本社 / 2014年12月2日発売
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13歳の子供がいるキャバ嬢の深月(みつき)は、客の天本圭(あまもとけい)に誘われ、山奥のレストランへと足を踏み入れる。アットホームな空気をもつ店、料理を丁寧に説明するマスター、そして美味しい料理…しかし同じように席についていた男の客の叫び声から一転、レストランは凄惨な現場と化す。
まどろっこしくて状況がよくわかりにくい描写とわかりにくいインターバル、読んでいて無駄に気持ち悪くなる感じ…と、全てが合わず、途中で読むのを断念。後から調べたら、前もこの作家の作品、途中で断念してた。生理的に合わないんだろうな。
2024年5月24日