伊藤計劃の名を轟かせたSF作。その短い人生の中で書きあげられた本作には氏の苦悩、絶望の淵にあっても感じられる世界への愛が詰まっている。
目をそらさないで真剣にこの世界を捉えていた氏の紡ぐ言葉に頭をガーンと殴られたような気がした。グロテスクな描写、暴力と絶望の戦争描写、それぞれは確かに衝撃的ですごいが、より心を打ったのが「虐殺器官」という設定とその説得力だった。
主人公やウィリアムと世界の至るところで紛争の種をまき、虐殺の限りをつくさせているジョンの対比が軸にはある。しかしどちらも世界や家族、文明を愛するがゆえの価値観をぶつけており相容れない構造になっている。それゆえにラストは衝撃的になるのだが・・・。
この作品は自分の価値観や世界観を変え、SFというもののすごさを感じた大好きな作品であり、同時に氏の情熱、世界への愛を感じると胸が締め付けられる、といったアンビバレントな感覚を感じる作品である。
決して誰もかれも好む作品ではないが、SF史に残る作品であり、我が家の本棚からは決してなくならないであろう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2012年3月10日
- 読了日 : 2011年2月21日
- 本棚登録日 : 2011年1月30日
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