読み終わりました、「スピルオーバー:ウイルスはなぜ動物からヒトへ飛び移るのか」。
小さい文字で500ページ。図書館で借りてしまったので2週間の間に読み終わらねば!と必死に読みました。
非常に濃い本でした。
スピルオーバー:異種間伝播。動物からヒトに感染する感染症について書かれた本。そもそもは2012年にアメリカで出版されて、その時にも話題になっていたとのこと。新型コロナウイルスの世界的なパンデミックという状況になって、加筆を加えて日本語に翻訳され、2020年3月に出版された。
著者はジャーナリスト。いろいろなフィールド調査などにも参加していて、今まで人間界で脅威となってきた感染症(エボラ、マラリア、SARS、HIVなど)について、ありとあらゆるストーリー、すなわち、病原体を特定するまでのストーリー、宿主(保有宿主、増殖宿主)を探すためのフィールド調査のストーリー、感染経路を特定するストーリー、ゲノム解析を使って今までの感染の歴史を推測するまでのストーリーなどを、事細かく書いてある。
成功した例だけではなく、考え違いだった寄り道も書かれているし、各国の研究者たちの動向を細かく記述してくれているので、ものすごい情報量。私の脳みそはパンク状態で読んでました(研究者の名前はほぼ読み飛ばさせていただきました…)。でも、すごくきちんとした情報を集めて書かれていることはわかる。
色々な感染症についてのストーリーが書かれていたけれど、一番心に残ったのは最後のまとめの第9章。
著者が住むモンタナ州で町中に毛虫が大発生(アウトブレイク)し、町中の木の葉っぱが食べ尽くされる現象が起きたけれど、あっという間に毛虫たちもいなくなった。その原因は毛虫の感染症だった。という話をした後に、アラン・A・ベリーマンという昆虫学者が書いた論文での一説を引用。
「地球上での最も深刻なアウトブレイクは、
ホモ・サピエンスという種のアウトブレイクであろう」
そう、ホモ・サピエンスは、この100年足らずの間だけでも人口をどんどんと増やしている。モンタナ州の街に突然起こった毛虫のアウトブレイクのように。そして人間のもっと悪いところは、環境を破壊して、他の生物たちの居場所にまで進出しているということ。ある種の生物が大量発生した時、そこで感染症が起こればあっという間に全体に感染してしまう。
そして、2019年以降、私たちは、世界中を網羅するように感染を広げている感染症に出会ってしまっている…。
この本の原著は2012年に出版された。その時点で著者は、ネクスト・ビッグ・ワン(NBO:次に来る大規模なアウトブレイク)が「コロナウイルス」かもしれない、と書いている。その感染症が見つかったときに、人類が正しい選択をしなければ、パンデミックから逃れられないかもしれない、と。
まさに今、私たちが経験していること…。
人が増えすぎ、環境を破壊し、わざわざ感染症をもらいにいくかの如く動物たちに近づき、追い払い、気候まで変動させようとしている。スピルオーバーによるパンデミックへの道を突き進んでいる、というストーリーが見えて、恐ろしい気持ちになりました。
人口増加は避けられない。自然破壊は避けられない。ほんと?
アウトブレイクしてしまった我々ホモ・サピエンスは、これからどうしていったらいいんだろう…。国家間で争っている場合じゃないのでは…???
最後に、ストーリーの中に詰め込まれている重要な情報から、私なりの理解を書き出しておきます。自分用メモ。
・ズーノーシス(人獣共通感染症):自然環境が安定していれば、感染することはない。生活圏が重なり、互いの密度が高くなった時に感染する可能性が出てくる。
・ズーノーシスは、自然界の動物たちが保持しているので撲滅できない。天然痘、ポリオはズーノーシスではないからこそ撲滅できた。
・保有宿主とヒトが接触する機会があっても、中間に増殖宿主がない場合には感染しないことがある。ヘンドラの馬(外来種)、口蹄疫の豚、Q熱のヤギなど。SARSでは不衛生な場所での多くの動物の混在でのスピルオーバー。
・パンデミックを起こすために必要なのは、ヒトーヒト感染の有無。動物内でのパンデミックが起こってもヒトーヒト感染が起こらないものでは人間のパンデミックは起きない。でも、ウイルスが変異してヒトーヒト感染の力を手に入れれば、あっという間に広がる可能性がある。
・RNAウイルスはコピーミスが起こりやすく、多様性をもち、新たな環境に適応できる。ゲノムサイズが小さいので、大量にコピーすることができる。一方、DNAウイルスは、潜伏するという戦略に出ることがある。
※コロナウイルス、インフルエンザウイルス、HIVウイルス、などはRNAウイルス。
※帯状疱疹(ヘルペスウイルス)などはDNAウイルス。
・ウイルスを見つけるのが難航したのは、非常に小さいこと(光学顕微鏡では見えない)と、ウイルスだけでは増殖できないので、細菌のように培養することができなかったから。わかってからは、動物の腎細胞などを使って培養するようになっているらしい。
※細胞内増殖をする小さい細菌も見つけづらい(Q熱)。
・スピルオーバーによる感染症の発生は近年でも数多い。
1961年ボリビアのマチュポ、1967年ドイツのマールブルグ、1976年ザイールとスーダンのエボラ、1981年米ニューヨークのとカリフォルニアのHIV、1993年米南西部のシン・ノンブル、1994年オーストラリアのヘンドラ、1997年香港の鳥インフルエンザ、1998年マレーシアのニパ、1999年ニューヨークのウエストナイル、2002年中国のSARS、2012年サウジアラビアのMERS、2014年西アフリカでエボラ再び、2019年SARS-Cov-2。
目次メモ
1. 青い馬ーーヘンドラ
2. 十三匹のゴリラーーエボラ
3. あらゆるものはどこからかやって来るーーマラリア
4. ネズミ農場での夕食ーーSARS
5. シカ、オウム、隣の少年ーーQ熱、オウム病、ライム病
6. 拡散するウイルスーーヘルペスB
7. 天上の宿主ーーニパ、マールブルグ
8. チンパンジーと川ーーHIV
9. 運命は定まっていない
補章 私たちがその流行をもたらしたーー新型コロナ
- 感想投稿日 : 2022年2月1日
- 読了日 : 2022年2月2日
- 本棚登録日 : 2022年2月1日
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