歌行燈 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店 (2017年6月17日発売)
4.19
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本棚登録 : 140
感想 : 9
5

なんなんだこのカッコよさは。。
他に類を見ない研ぎ澄まされた文章に
ただただ圧倒される。
泉鏡花はもはや自立した
一つのジャンルという感覚になる。


物語は、
「東海道中〜」の弥次喜多ごっこをしながら
旅をする老人2人と、
饂飩屋に訪れた流しの歌い手、
A面B面のふたつのストーリーで
のらりくらりと始まる。

出だしは私には読みづらい。
110年前の文章という以上に、
主語と述語が数珠つなぎのように連なってゆく
独特の文体がそうさせるのであろうか。
要所要所の描写の美しさに
ハッとさせられながらも、
人物や出来事を正確につかむのにも
ちょっと苦労する。
出だしというか中盤くらいまでは、
やや根気で読み進む。

しかし、物語も後半に差し掛かってくると、
次第にA、B両面の物語は交錯し、加速し、
ちょうど歌舞伎や大相撲の、次第に早くなる
拍子木の音を聞いているように、
目まぐるしく交代のリズムを速めながら、
最後の一点に向かって収束していく。
そして、ついに両者が重なったその一点で、
ピタリと物語が幕を引く。

その間の描写の、比類のない美しさと緊張感、
弛みなく最後の一点へと上り詰めていくリズム感。

もはや電車を降りても読むのを止められず、
吸い込まれるように一気に読み終えた。
後には只々ため息がでるばかりである。

「高野聖」も最後まで完璧な筆さばきの
見事さが忘れられないが、
この作品も同じような凄みを堪能できる。
全部で99ページと短いし、大満足で、
誰かにお勧めしたい一冊。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年9月10日
読了日 : 2019年9月10日
本棚登録日 : 2019年9月10日

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