
◇ 狂気の支配者へ…「これぞ命の重さ」 ◇
ナチの総統ヒトラーによるユダヤ人の大量虐殺は歴史上、凄惨さを極めた出来事として、決して記憶から消し去ることはできない。
全編を通しそうした虐殺の処理班、ゲハイム=ストレーガー(ソンダーコマンド/秘密の運搬人)として、特別な身分の囚人集団の任務が描かれている。
他の囚人とは引き離され、食事は与えられるものの、数ヶ月働かされたのちには、彼らもまた抹殺される運命に在るのだった・・・
ソンダーコマンドのひとりであるサウルという男が、ひとりの少年が死にきれずまだ息をしていることに気づくが、少年は救われることなく事切れる。そして医師は上からの命令で、少年も解剖せよとの任を仰せつかる。
それを目の当たりにしたサウルはこの少年が自分の息子だとして、断じて解剖はさせまじ!という想いから、少年の遺体を盗んで隠すという行為に出るのだった。
サウルと一緒に働かされている仲間のひとりは、サウルに言う。「お前に息子は居ない…」と。。。
そう言われた以降のサウルの表情が実に崇高に見えてくる。それは恐ろしいほど研ぎ澄まされた真摯な一念。
“少年を丁重に埋葬し天に召しさせてやりたい”という想いがサウルを恐怖をもろともせずに毅然と突き動かすのだった。
命をごみの如く焼却、遺棄し、灰を川に投擲。血のしみついた床をブラシで延々と擦り、掃除をさせられる。直視できないような残酷極まりない作業を強いられるソンダーコマンドたち。
サウルや、その仲間たちの背後では常にそうしたシーンが展開されているのだが、そこには暈しが常時施されている。それだけに却ってヒトラー総統の狂気性が現実味を帯びて感じられてくる。
女も子供も年寄も容赦なく衣服を剥ぎ取られ生まれたままの状態で事切れていき、遺体は物のように両腕を引っ張られ、ずるずると引きずられ山積みにされていく。
次は自分たちかもしれない。このままではいけない。何とか逃げ延びるのだ。そうすれば立ち討つ術も出来てくる。一抹の希望を胸にソンダーコマンドの一部の者たちだけで脱出を試みるのだった。
辿り着いた森の中で彼らは、朽ち果てそうな小屋でしばし休息をとっていると、出入り口の向こうに少年が立っているではないか…
仲間のみんなは背を向けているので気づかず、サウルだけがその少年と目が合い、何とそこで彼は初めて、何とも言い知れぬ良い微笑をたた.....
しばらくして森に銃声の連発音が轟くのだったーーー
“過ち”の歴史は繰り返すことなかれ。
“
命を消耗品”とする“戦争という狂気に満ちた行為”に大義名分など在り得ない***
- レビュー投稿日
- 2017年6月21日
- 読了日
- 2017年6月29日
- 本棚登録日
- 2017年6月29日