ぼくが世の中に学んだこと (岩波現代文庫 社会 166)

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  • 岩波書店 (2008年5月16日発売)
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著者の鎌田慧(1938年~)は、底辺労働者などの社会的な弱者の立場に拠ったルポルタージュを数多く執筆している社会派ルポライター。
本作品は、1983年に出版され、1992年にちくま文庫で文庫化、2008年に岩波現代文庫から復刊された。
本書は、著者が青森県弘前高校を卒業後、ルポライターとして認められるまでの自伝的記録である。
著者は上京後、8ミリカメラを作る町工場の見習工、謄写技術を教える学校に付属する印刷部門の見習工、出版・印刷会社の労働組合の連合(職業ではないが)を経て、一旦早大文学部露文科に在学した後、更に、鉄鋼の専門紙(業界紙)の記者、ちいさな雑誌社の編集者を経験して、フリーライターとなる。そして、フリーライターになった後も、対馬の公害問題の取材、八幡製鉄所、トヨタ自動車、旭硝子の船橋工場で季節工を経験する。
そして、そこで学んだことは、「日本の高度成長がつづき、列島改造時代といわれていた。全国の農村から、おびただしい数のひとびとが都会にでてきて、ビルや橋や高速道路をつくり、工場の底辺部ではたらいていた。日本の繁栄をじっさいにささえたのは、このひとたちだった。およそ半年間、ひとによっては一年中、彼らは家族と別れて、殺風景なプレハブづくりの飯場や独身寮で生活する。新日鉄やトヨタで知ったことなのだが、いちばんひどい仕事をおしつけられるのは、このひとたちなのである」、「このひとたちは、けっしてめぐまれていなかったが、みんな冗談好きの仲間おもいのひとたちだった。・・・ぼくは、そのひとたちの眼をとおしてものをみ、そのひとたちのことばをとおしてものを考えることができた」、「格別、ぼくのような職業につかなくとも、さまざまな場所で、自由に、つまりはひとを支配したり、ひとに強制したり、あるいはひとから強制されたり、自分の意見をいわなかったり、あきらめてしまったり、そんな生き方でない生き方をしているひとがいる。いい会社にはいって出世することだけを最大の価値にしたり、人生の目標とさえしなければ、さほどむずかしいことではない。生活するのは、さほどむずかしいことではない。むずかしいのは、生き方である」ということなのだという。
そして最後に、「この本の読者のなかから、どんな苦しいときでも、その苦しみを仲間とわかちあい、明るく生きている多くのひとのいることを知り、自由におおらかに生きていく年若いひとたちが、ひとりでも、ふたりでもでてくれれば、著者としての本望である」と結んでいる。
時代は移っても、社会には富と権力を握る強者と、日の当たらない弱者が存在する。
著者が言う「むずかしい生き方の選択」を如何にするのか、自分で考えるための材料を本書は提供してくれる。
(2007年9月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年9月22日
読了日 : -
本棚登録日 : 2016年3月20日

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