ミハイル・ゴルバチョフ 変わりゆく世界の中で

  • 朝日新聞出版 (2020年7月20日発売)
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本書は、ソビエト連邦最後の最高指導者であるミハエル・ゴルバチョフが、東西冷戦終結に向かった当時の国際政治の舞台を振り返り、更に、現在の世界の情勢を踏まえて、次世代へのメッセージを記したものである。原書は2018年に発表され、今般日本語訳が出版された。
ゴルバチョフ(1931年~)は、1985年にソ連の指導者では異例の若さ(54歳)で共産党書記長に就任し、内政では停滞していたソ連の政治・経済の抜本的改革を目指しペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)を断行し、外交では新思考外交に基づき東欧の民主化革命を支持して東西冷戦を終結させた。その功績からノーベル平和賞を受賞し、西側諸国では幅広く評価されているものの、ロシア国内では米国と並ぶ超大国であったソ連の崩壊の責任者と見られ、人気は高くないという。
私は1960年代前半の生まれで、物心がついた時から東西冷戦の構図にあり、世界が東西に分断された状態は未来永劫続くものと、何の疑問も抱かずに思っていたのだが、ゴルバチョフがソ連の最高指導者に就くや、わずか5年ほどの間に、あれほど頑強と思われたソ連が解体し、東欧諸国の民主化が達成されたのだ。。。(あの時点での連邦制の解体はゴルバチョフの望んだものではなかったが、彼のめざした方向性からすればいずれはそうなったと思われる) 当時はニュース等で日々の状況変化を追っていたはずなのだが、後に振り返ると、一夜明けたら世界が一変していたというような劇的な出来事であった。そして、今でも強く思うのは、もしあの時のソ連の最高指導者がゴルバチョフでなかったら、あのタイミングで、あのような未来志向型の冷戦終結は間違いなく起こらなかったということである。 
本書でゴルバチョフは、いかなる価値観・信念に基づき、どのような覚悟で、米国のレーガン、ブッシュ両大統領、シュルツ、ベーカー両国務長官、ドイツのコール首相、ゲンシャー外相、フランスのミッテラン大統領、英国のサッチャー首相、メージャー首相らの世界の指導者たちと事を進めていったのか、また、国内において、連邦制の維持に反対する急進的なエリツィン大統領らに対応していったのかを、赤裸々に綴っている。
そして、読了して、ゴルバチョフがいかに普遍的価値観を重視し、その価値観に沿った世界を創るという理想を追い求めていたのかが理解できたし、あの時代にゴルバチョフという政治家が存在したことの意味の大きさを再認識した。
ゴルバチョフは政治家としては理想主義的過ぎる(結局、ソ連邦崩壊、国力弱体化という国益に合わない結果に導いた)という評価もあるが、私はそうした意見には全く与しない。ゴルバチョフは末尾でこう語っている。「1988年12月の国連での演説で、私はこう述べた。<我々の理想は、自らの対外政策活動でも法に従う法治国家による世界共同体である>と。この理想は今日も、まだまだほど遠い。しかし、これは決して、大きな目標と人類の理想を掲げて我々は無邪気な人間だった、ということを意味しない。単に我々は、それがなければ将来への道は克服できないと分かっていた。」と。翻って、今の世界を見ると、「理想」などいうに及ばず、自国民の利益すらそっちのけで、自分の権力維持しか考えない指導者が多く、嘆かわしいばかりであるが、そうした指導者を選んでいるのは外ならぬ我々なのであり、我々一人ひとりが、社会を、国を、ひいては世界をどうしたいのかを真剣に考えることから始めなくてはならないのだと思う。
齢90を目前にした稀代の政治家ゴルバチョフが、次世代の我々に残す遺言ともいえる一冊である。
(2020年8月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年8月7日
読了日 : 2020年8月7日
本棚登録日 : 2020年8月6日

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