物理学や数学に基づいた数理モデルを使って金融市場の動きを捉えようとしてきた、科学者、クオンツたちの歴史を綴ったノンフィクション。
2012年発刊、2013年邦訳出版され、2015年文庫化された。
著者は本書で、「クオンツというものがどうやって生まれてきたのか、そして現代の金融理論に欠かせないものとなった「難解な数理モデル」とはいったい何なのか。・・・さらに、世界中が直面している経済問題を解決するうえで、なぜ物理学や数学の視点が必要なのか」を描いたといい、具体的に、
~19世紀末にパリで最初の重要な金融理論である「株価のランダム・ウォーク」を唱えたルイ・パシュリエ
~それを精緻化したモーリー・オズボーンとブノワ・マンデルプロ
~それらの理論を実践して初めて現代的なヘッジ・ファンドを生み出したエドワード・ソープ
~今でもあらゆるデリバティブ価格モデルの規範となる「ブラック・ショールズ・モデル」を生み出したフィッシャー・ブラック、マイロン・ショールズ、ロバート・マートン
~アルゴリズムを利用した予測モデルを考案したプレディクション・カンパニー(ジェイムズ・ドイン・ファーマーとノーマン・パッカード)
~更に大胆に例外事象「ドラゴン・キング」を予測したディディエ・ソネット、
~そして、エリック・ワインシュタインとピア・マラニーが中心となって進める、経済学者・物理学者・その他の研究者を結びつける大規模なコラボレーション計画「経済マンハッタン計画」
などについて詳細に綴られている。
私は、文系キャリアながら、1990年代半ばにロンドン・シティでソロモン・ブラザーズ出身のクオンツたちとデスクを並べ、彼等の投資手法を身近で見てきたが、彼等の、相場の動く方向に賭けずに、同時に割安なものを買って割高なものを売ることにより、ネットポジションをニュートラルに保つ「アビトラージ(裁定取引)」という投資手法に、目から鱗が落ちたことを思い出す。本書でも取り上げられている、デルタヘッジ、ダイナミックヘッジ等を利用したものである。
数式等は一切使われていないとはいえ、難解な概念は少なくないし、金融デリバティブに馴染みのない人にはとっつき難いとは思うが、金融工学の歴史をコンパクトにまとめたものとして、意義ある書と思う。
(2015年7月了)
- 感想投稿日 : 2016年1月15日
- 読了日 : 2016年2月12日
- 本棚登録日 : 2016年1月15日
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