生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2014年4月10日発売)
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感想 : 4
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NHKが、2010年及びノーベル生理学・医学賞受賞後の2012年に、山中伸弥教授のiPS細胞研究に関するドキュメンタリーの作成のために行った取材をまとめたものである。
本書では、1.iPS細胞発見までの道のり、2.夢の再生医療の扉が開かれた、3.万能細胞が開くパンドラの箱、4.iPS細胞で深まる生命の謎、5.激しさを増すiPS細胞WARS、の5章の後に、立花隆と国谷裕子キャスターによる山中教授へのインタビュー「iPS細胞と生命の神秘」が収められている。
既存の細胞にたった4つの遺伝子を入れることによってその細胞が初期化され、iPS細胞ができるという発見は驚くべきもので、iPS細胞がこれまで医療や生命科学の世界をドラスティックに変えてきたという事実と、今後の再生医療や創薬におけるiPS細胞に対する大きな期待を、開発からわずか6年でノーベル賞を受賞したということが物語っていると言える。
しかし、その一方で、私が改めて関心を持ったのは、生命科学の分野では避けて通れない倫理問題である。iPS細胞は、同様の「万能細胞」であるES細胞が持っていた「ES細胞を作るためにヒトの受精卵を意図的に壊す」という倫理問題を解決したが、同時に更なる問題を提起することになったという。一つは、「iPS細胞は誰のものか」、つまり「細胞を提供した患者はその細胞株をどこまでコントロールする権利を持っているのか」という問題、もう一つは、誰の細胞からも動物とのキメラやクローンが技術的には作れるかもしれないという問題である。生命科学の進歩により、人類は自らがコントロールできる境界線を超えつつあるのではないか、そんな恐ろしさすら感じるのである。
また、山中教授は、自分の歩んできた過去を振り返り、若い研究者に「人間万事塞翁が馬」という言葉を贈るとともに、良いことにも悪いことにも一喜一憂せず、淡々と努力することの大切さを繰り返し語っている。
生命科学の最先端、iPS細胞に関する全体観を掴むことができる。
(2014年4月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年1月11日
読了日 : 2016年2月12日
本棚登録日 : 2016年1月11日

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