腐った臭い、淀んだ川面、年中湿って黴臭さが消えない貧乏長屋。
どぶ川沿いに住みついた人たちは、常に灰色の陰に覆われて日々を細々と生きている。
誰も好き好んで生まれた訳でもない、己の貧しい出自に苦い思いを抱きながら、それでも他に逃げ場もなく、置かれたその場所で生きていかねばならない定め。
忘れたくても忘れられない思いや、脱ぎ捨ててしまいたい重しに苛まれる。
長年に渡って溜め込んだ塵芥が重すぎて、何処へも逃れられずにただただ留まるばかり。
みんな脛に傷を持つ者ばかり。人生の光も陰も痛いほど知っている。
心の底に滞る淀みを捨て去る度胸もなく、いつまでも溜め込んでは愚痴ってばかり。
それを人の弱さと批判する者もいるけれど、その弱さもやはりその人の一部。
互いの傷に干渉することなく、いい塩梅に距離を保ち互いをそっと思いやる。そんな長屋の住人たちの関係が好ましかった。
どぶ川の淀みに似た、住人たちの心を蝕む淀みが、話が進む度に少しづつではあるが静かに吐き出されていく様がいい。
細やかな日常に降り注ぐ、微かな光に希望を見出す連作短編集だった。
ただ、思ったより薄味だったかな。
直木賞受賞作ということで期待しすぎたのかも。
淡々と物語が進んでいく感じでちょっと残念。
人間関係をもっと深く、グイグイえぐって長屋の住人たちの感情を剥き出させても良かったかも。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
西條奈加
- 感想投稿日 : 2021年4月8日
- 読了日 : 2021年4月8日
- 本棚登録日 : 2021年4月4日
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