好戦の共和国アメリカ: 戦争の記憶をたどる (岩波新書 新赤版 1148)

著者 :
  • 岩波書店 (2008年9月19日発売)
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東京大学名誉教授、現・東京女子大学教授の油井大三郎による「戦争」をキーワードにしたアメリカ史の通史。

【構成】
第1章 独立への道-植民地戦争と独立戦争
 1 北米植民地の誕生
 2 激化する対先住民戦争
 3 頻発する植民地戦争
 4 辛勝の独立戦争
第2章 対欧「孤立」と大陸内「膨張」-第二次米英戦争とアメリカ・メキシコ戦争
 1 憲法制定と第二次米英戦争
 2 アメリカ・メキシコ戦争
第3章 内戦の悲劇と海洋帝国化-南北戦争と米西戦争
 1 南北戦争の勃発
 2 戦争の記憶と愛国的な和解
 3 米西戦争と海洋帝国化
第4章 新世界秩序の構築-二つの世界大戦
 1 第一次世界大戦-世界政治への参入と挫折
 2 戦間期アメリカのディレンマ-中立と反ファシズムの間
 3 「よい戦争」としての第二次世界大戦
第5章 「パクス・アメリカーナ」と局地戦争-朝鮮戦争とベトナム戦争
 1 朝鮮戦争-勝利感なき戦争
 2 ベトナム戦争-史上初の「敗戦」
第6章 ポスト冷戦下の民衆・宗教紛争とアメリカ-湾岸戦争と対テロ戦争
 1 米ソ冷戦の終結と湾岸戦争
 2 「対テロ戦争」とアメリカ
 3 2008年選挙と「対テロ戦争」の影

 本書は、18世紀の独立戦争から21世紀の「対テロ戦争」まで、アメリカ合衆国が経験した「戦争」について、その政治外交を概括するとともに、戦争遂行の原動力となった社会的文化的背景に焦点をあてている。
 そして、構成を見てもわかる通り、前半3章が19世紀まで、後半3章が20世紀以降となっている。ごく一般的な見方として、アメリカの戦争と言えば、第二次大戦であったり戦後冷戦下の限定戦争などが中心となると思うが、本書では相対的に建国期から独立戦争までの記述が多くなっている。

 巻末に依拠するならば、アメリカの戦争体験は5つの時代に区分できるという。
【第1期】
 植民地時代であり、ヨーロッパ諸国間の「植民地戦争」と「対先住民戦争」が多発していたが、前者は限定的なものであったのに対して、後者は無限定的な戦闘が行われるという二重基準状態であった。
【第2期】
 独立から19世紀末までの時期であり、「対先住民戦争」の継続や米墨戦争により西部への領土拡大が進行した。独立期に形成された非戦的世論は領土拡大が進むにつれ薄れていき、19世紀半ばには多大な犠牲をうんだ南北戦争の悲劇を体験する。
【第3期】
 19世紀末から第二次大戦までの時代であり、「大国化」「帝国主義国化」が進む。キューバへの人道的援助というきっかけから始まった米西戦争が、いつの間にか太平洋を横断するかのように海外領土を獲得する戦争にとってかわったことがそれを象徴している。しかし一方で、これに反対するという論調も生まれ、「門戸開放」のような「非公式帝国」路線が主流となった。反帝国主義は、アメリカ自身の自由主義への自負と相まって、ウィルソンのような「民主主義の輸出」という名目での戦争をも肯定する風潮が産み出されることになった。そして2つの世界大戦において、徴兵制が敷かれ、かつて広く覆っていた非戦的世論が声高に叫ばれることは無くなった。
【第4期】
 第二次大戦後の冷戦下の時代であり、第二次大戦を「よい戦争」として認識したアメリカ国民であったが、自由主義の絶対化による対ソ封じ込め戦略が形成されるとともに平時での大規模兵力の維持を行うことに違和感を感じなくなった。そして、局地戦としての「勝利無き」朝鮮戦争と「敗戦」ベトナム戦争の経験がアメリカの対外政策への長期的介入を拒絶する「ベトナム症候群」を生むことになった。
【第5期】
 冷戦終結後、ブッシュ(父)政権は、湾岸戦争で勝利を収め「ベトナムの亡霊」をアラビアの砂漠に封じ込め、「新世界秩序」の建設を謳った。同時多発テロ以後、ネオコン主導の単独での軍事介入主義が露骨に現れたが、その後イラク戦争の戦後処理の泥沼化を受け、再び国際協調が主張されるようになっている。

 著者はこう時代区分を行い、好戦論と非戦論とが交互に現れた400年であったことをふまえて、アメリカが好戦的である源泉を列挙する。すなわち、①領土・市場の拡張主義、②勢力均衡重視の軍事的リアリズム、③国民・国土の防衛という「被害」意識、被害者への共感、④民主主義のための戦争という論理という4つが「デモクラシーの先駆者」を自負するアメリカが好戦的になる理由であると述べている。

 全体を通して目新しさは無いが、思想的潮流としての「好戦」「非戦」がせめぎ合うアメリカのジレンマが簡明に説明されており、特に予備知識を必要とせずに読み通すことができる。ごく個人的な意見を述べれば、建国期に形成された「民兵制」や「文民統制」が、いかに変容したのかという記述がもう少し欲しかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書(岩波)
感想投稿日 : 2011年4月24日
読了日 : 2008年10月26日
本棚登録日 : 2009年11月4日

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