独ソ戦の勃発から終戦のベルリンまで従軍した作家ワシーリー・グロスーマンの膨大な取材ノートやメモを元に構成されたドキュメント。ユダヤ系の家庭に生まれ、理想主義から従軍記者を志願し様々な戦場を転戦とするも、その出自やリアリズムへの姿勢の変化に次第にロシア人社会に疎まれ不遇の晩年を送ったが、本書内の取材ノートを読むとその類まれな文才と徹底した現場主義に驚かされる。ドイツ侵攻時のモスクワの混乱、突然の戦乱でそれまでの生活をめちゃめちゃにされてしまった地方の農村たち、「地獄よりも恐ろしい」スターリングラードの攻防戦からの赤軍の転機、そしてベルリンへ押し寄せる戦友とも言える自国軍が起こした非情な現実。悪名高いトレブリンカ絶滅収容所の描写は凄惨極まりないが、同時に「なぜこのような殺戮が機能してしまったのか?」という疑問を解き明かそうともしている。
グロースマンは理想としていた赤軍の残虐な行為も多く書き残したが、同時にエースパイロットから無名の歩兵まで、前線で戦ったいち兵士や農民をこよなく愛し、戦争の犠牲者を悼んだ。膨大な取材記録や、取り留めのない兵士たちのスラングを書いたメモの羅列をすべて読むにはかなりの集中力が必要だが(500ページ強!)一度読んでしまえばあっという間に引き込まれる情景の描写に彼の作家としての姿勢が伺える。
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- 感想投稿日 : 2013年9月23日
- 読了日 : 2013年9月23日
- 本棚登録日 : 2013年9月15日
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