ガラス張りの透明の家が立ち並び、家の中で住民が何をしているかはっきりと分かる。外から丸見えなのだ。犯罪は人目のない隠れた場所で起こるから、衆人環視がいき渡る透明の世界を作ってしまったのがこの小説の世界である。プライバシーを徹底的に犠牲にしてまで犯罪のない社会を作ろうなんて、私には狂気の沙汰としか思えないが、でも今のこの世界、このような極端な方向を安易に受け入れてしまう怖さがあると思う。中庸は良しとせず、問題を解決できるのであれば、度を越した方法でもいいと考える人が多くなったと思う。そこまでしないと解決ができないほど問題はからみあっていると考えるのだ。この小説の恐ろしいところは、司法制度が否定され一般市民が司法を担っていることだ。昨今のsnsの炎上のように、根拠のない噂や一時の感情に市民は突き動かされ、自分の信じたいことだけを信じ、それを根拠に有罪無罪、犯罪の裁量を決めてしまう。全責任が個人に集約され、それを負うという社会は、前近代的で社会の退化だと思う。未来は、テクノロジーと一緒に社会制度も進歩して、『昨日より明日はいい社会になる』という考えは、夢物語になったようだ。経年劣化によって社会はきっと、衰退の道を歩んでいくのだ。
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- 感想投稿日 : 2025年3月16日
- 読了日 : 2025年3月6日
- 本棚登録日 : 2025年3月6日
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