C・W ニコルの生きる力 (ソリストの思考術)

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  • 六耀社 (2011年12月14日発売)
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感想 : 3
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ナチュラリスト、C・W・ニコル氏の、これまでの経験を踏まえた上で、生きる力とは、人間の生き方とはを説く一冊。
ふとしたきっかけで行った北極の生態調査を皮切りに、エチオピア・カナダ・日本と、その大自然に触れながら生きる様は、まさに自然の申し子と言ってもいいかもしれません。そして、単に生態の調査をするだけでなく、時に動物たちとの生命をかけた戦いや、飢えて死ぬかもしれない直面に立った時に見せられた生物界の神秘を目の当たりにしたからこそ、「人間は自然の中の一部にすぎない」という説得力が滲み出ています。
しかしそれでも、本書中では、「この仕事に就かなければ、今私の人生はどんなふうになっていたであろう」という文言がいくつか見られます。これも運命に導かれた業、とでもいうのでしょうか。そういう意味で言えば、この本を手に取った僕自身も、一つの運命に導かれた、というところでしょうね。

ここ数年の人間の開発は、如何に環境に負荷を与えず、生態系を壊さないように配慮しながら進めていくか、というところに主眼を置いていますが、所詮それは『今から』の話。かつて、そんな生態系や環境負荷を全くわきまえずに開発を推し進めた結果こそが、『今になって』やってきている。たとえば、熊の市街地への出没。たとえば、汚染物質の河川への垂れ流し。
自然は、円環として循環しているのと同じように、人間が引き起こした負の行為においても、やはり円環となって巡りかえってくる。人間は、その業を自分たちで受け止めなければならない。ニコル氏は、早くからそれを知っていた(勿論、氏以外にも、たくさんの人がそれを知っていた)。
しかし、所詮は補助金等の金や利権の方に目を向けてしまうのは人の常。人が今の状態からよりよい生活を求めるのは、過去から連なる人としての願望ではあるけれど、その願望によって失われるものもたくさんある。氏は、それを切々と訴えてきたが、「日本のことが好きな外国人」という目でしか見られなかった。日本国籍を取得した今、もうそんなことは言わせない。氏の活動は、今でも、地道だけれど、多くの方々の共感を得ながら、輪になって広がっていく、そんな光景が、読み進めて感じるようになりました。

特に本書で注目したのは、やはり氏としての人生を生きるための道標。「やりたいことをとことんまで突き進む」。まだまだ迷いが続く僕としては、心に染み入るように力強い言葉となったのは言うまでもありません。何かにブレた時、もう一回読み直して、自分の軸を、見つめていこうと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: book
感想投稿日 : 2012年12月30日
読了日 : 2012年12月28日
本棚登録日 : 2012年12月23日

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