芥川龍之介全集 全8巻 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房 (1994年3月1日発売)
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本棚登録 : 143
感想 : 11
5

芥川龍之介は、「羅生門」、「鼻」など教科書的名作は学生の頃読んでいました。オサーンになってこうしてまとめて読みますと、改めてその天才性に驚きます。特に短編のキレが素晴らしい。やはり凄い作家です。
「偸盗」「浅草公園」など有名な作はもちろん、印象に残ったのは、自殺の直前に著わされた、遺書的独白シリーズ(暗中問答、或阿呆の一生、或旧友へ送る手記、大導寺信輔の半生、など)。その内容の深刻さがあっても、やはり鮮烈な表現にハッとさせられます。筆致に躍動感があります。
しかしこの時代って、自殺することが一種のスタイルだったんですね。同時代の太宰治を引合いに出すまでもありませんが、表現者の深い苦悩を慮るとともに、時代の風潮を感じてしまいます。やはり夭逝は、あまりに惜しい。


やっぱり名作「河童」は秀作でした。面白い。
しかし、トータルでなんとシニカルなのでしょうか…ペシミズムともダダイズムともまた違う、天才故の孤独。続けてたくさん読むことにより、なんとなく分かってきた気がします。頭が良すぎるのも、また難しいものなのですね。私は馬鹿で良かったです。


「侏儒の言葉」「狢」「南京の基督」あたりは、まー強烈です。シニカルの権化ですね。小品「ピアノ」も変にさわやかで面白かった。
 あ、ちょっと気づいてしまったのですけど、芥川さんはどんなお話しでも、かならずひねった落ちをつけてしまうのですね。適当にぼかして余韻を残すのも良いのかな~などと愚考したりしてしまいます。


「猿蟹合戦」がシニカルで、「仙人」は洒脱、「捨児」でほろりと。一番は「素戔嗚尊」。躍動的荒事有り濡れ場有り。神話的寓話的ジューカン的な感じの部分では、検閲伏せ字なんかも有ったり。突出した個性が共同体内でどのようにして孤立し追いつめられるのか。神代の頃より、人心というものは御し難いもの。考えさせられます。


 後は芥川先生イッキ読みもようやく終わりが見えてきました。青空文庫(無料名作)にある228作のうち、既に218作を読了。なんかちょっと寂しいです…
 ちょっと記憶が曖昧な部分もありますが、個人的には、「侏儒の言葉」「河童」「南京の基督」が好きかなぁ。

 しかし、結局全体の感想は、「こんなに頭がよろしくて、センシティブ極まる感性をお持ちでは、逆に生きづらかったのでせうなあ。自死はホントに残念極まるのですが…それも致し方なし…」というところです。
 いや!だがしかし!やはり夭折は惜しすぎます。感性豊かな若き天才の文学も大好物ではありますが、やはりその天才性は中絶するにはもったいないなさすぎ。酸いも甘いも噛み分け老成熟成した、大文豪芥川先生の作品も読みたかったです…ホントに…。結局「惜しいなぁ。」がホントの感想ですかね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文芸
感想投稿日 : 2012年3月9日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年3月9日

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