クララとお日さま

  • 早川書房 (2021年3月2日発売)
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感想 : 93
3

物語の舞台は近未来。
AFと呼ばれるおそらくAIロボットが子供たちの友達として存在している。
そして向上処置と呼ばれる、おそらくなんらかの手術のようなものを施された子供には、エリートとして輝かしい未来が保証されている、が反面、その処置には危険が伴い、体が弱り時には死にいたることもあるようだ。そのため、親は処置を受けさせるかどうか悩むことになるのだろう。

物語はクララというAFの少女と、彼女の持ち主、ジョジーとの友情がクララの目を通して描かれている。
ジョジーは向上処置によって病弱で、時にひどく体調を崩してしまう。クララはそんなジョジーに寄り添い、彼女が健康になるために必要だと思う"ある事"を成し遂げようとする。

"おそらく""だろう"を多用しているのは、設定に関する説明ようなものが一切無いからだ。
読者は前後の流れで、よく分からない言葉の意味や、意味ありげな会話の内容を考えながら読み進めなくてはならない。

ただ決して難解ではなく、想像し考えながら読むことは苦痛ではない。
SFが苦手な人でもたぶん読めるラインで書かれていると思う。
カズオ・イシグロさんらしい、アンニュイな視点で、物語は進んでいく。
AFクララの目を通して見える人間社会、家族との繋がり、人を思う気持ちは、現在も過去も未来も関係ない、普遍的なテーマだ。
語り手をAIにすることで、全く純粋な目線で描かれているような効果が得られている。
クララが信じていることはとても滑稽で無意味な事に思えるが、彼女の純粋な気持ちを笑うことはできない。

役目を終えたクララは一人、誰からも省みられることのない場所でずっと生きていく。
どれほどの孤独にいつまで絶えていかなくてはならないのか。
愛とは、生とは、誠実さとは、信仰とは、…様々なことを問いかけてくる作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説一般書
感想投稿日 : 2021年6月8日
読了日 : 2021年6月8日
本棚登録日 : 2021年6月8日

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