きみの体は何者か ――なぜ思い通りにならないのか? (ちくまQブックス)

著者 :
  • 筑摩書房 (2021年9月17日発売)
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〈自分の体の感覚を言葉にする〉

『どもる体』『目の見えない人は世界をどう見ているのか』などを執筆し、本人も吃音当事者である筆者による、「吃音」を例にしながら体と世界の関わり方について記した一冊。
そもそも「吃音」とは、しゃべろうとしたときに同じ音を連続して言ってしまったり、言葉につまったりする症状のことです。「どもり」とも言われています。

第1章で筆者は、自分の「体」というものは「思い通りにならないもの」だと言っています。
どんな顔になるのか、どんな運動が得意なのか、どんな障害を抱えるのかなど。化粧、美容整形、トレーニングなどで理想に近づくことは可能ですが、思ったままにすることは不可能です。
けれど「思い通りにならないこと」が「思っても見なかったこと」を連れてくると筆者は言っています。では、どのような「思ってもみないこと」を連れてくるのか。筆者は吃音の経験と研究を通じて学んだことを教えてくれます。

第2章から第5章までは主に吃音に関する解説です。
筆者はそもそも「しゃべれるほうが変」だと言っています。
声帯から出てくる音をなめらかな喉や舌、口の動きで新たな音に変えて、その後に続く音との連続を想定しながらスムーズな音の運びにして言葉にしていくことは、当たり前ではあるけれど簡単なことではないと言っています。
吃音の人はそれらの口周辺の体の動きにエラーが起き、体と心が連動しなくなり、それらをなんとかしながら言葉にしている。つまり、その試行錯誤の結果が吃音の症状として出ているのだそうです。

本書の中では吃音の以下の症状を紹介しています。
「ててててててがみ」のように最初の音を続けて言ってしまう「連発」
「連発」を隠そうとして、体が石のように固まってしまって言葉が出なくなる「難発」
「難発」を対処しようとして、ある言葉がつまりそうになったら、その言葉を似た意味の言葉に換える「言い換え」
吃音の症状でイメージしやすい、最初の音を繰り返す「連発」が、実は体がリラックスした状態で起こると答えている人が多いと筆者は紹介しています。つまり、体が先行してしまっている、言い換えれば体が開放されている状態で起こっているということです。それを隠そうとして「難発」が起こり、「難発」をごまかそうとして「言い換え」が起こるということでした。
私は「連発」の原因が体の緊張によるものだと思っていたため、その解説には驚きました。また前の症状をなんとかしようとして、「体」が次の症状を生み出していると知り、「体」の影響の大きさを知りました。

「言い換え」に関しては、吃音が治ったようにも思われるためにその症状を受け入れている人がいるそうです。一方で「言い換え」によって言葉のニュアンスが変わってしまい、自分の本意が伝わらないことで自分を偽っていると感じ、「言い換え」をしないようにして、あえて再び「どもり」が起こるように選んだ人もいるとのことでした。
私は、自分の体の状態を把握し、どのような体の状態が自分らしいか、つまり「体のアイデンティティ」を選択するということを知りました。

第6章では、それらの具体例を通じて「メタファー(隠喩)を味方につけよう」とまとめています。
吃音の症状がどうしてメタファーの話に?と思うかもしれませんが、筆者は、メタファーを獲得することで現実を見る見方をつくりだし、人々のふるまい方を変えると言っています。
それまでの章で、吃音の症状を説明するためにパソコンでのキーボード入力のメタファーを紹介していました。また、筆者が三島由紀夫の『金閣寺』での吃音の説明で使われているメタファーを引用して、吃音患者の方が「難発」をどのように捉えているのか紹介していました。まさに自分の言葉で体の感覚を語ることで、読者の「吃音」に対する現実の見方を変えていたのです。
また、体の反応をメタファーにして周りの人に伝えることで、知識ではなく「体」の感覚で相手に理解してもらうことができる可能性を示していました。

本書を読むと、まず吃音について理解を深めることができます。
そして、自分の体を見つめ、感覚を言葉にしたり相手に伝えたりすることで、体が発している力を信頼することができるということを学べます。

この「ちくまQブックス」シリーズに共通することですが、イラストが豊富、かつ二色刷りのため、読みやすいです。章ごとに区切られ、一冊あたりのページ数も少ないため、気軽に読めます。

自分の体って何なの?と思っている人にオススメの一冊です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月12日
読了日 : 2022年3月12日
本棚登録日 : 2022年2月25日

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