山岳小説を読むのはほとんど初めて。
タイトルからしてただ山に登るだけのストーリーかと思っていたが、人間ドラマが濃密に描かれた、人の生きざまを描いた作品。
ネパールのカトマンドゥ、怪しげな古道具屋で主人公があるカメラを手にとったことで物語は動き出す。
そのカメラは、かつてエヴェレスト登頂に挑戦して帰ってこなかったイギリスの登山家、ジョージ・マロニーのカメラと同じ型のものだった。
そのカメラを通して、羽生という山に生きる男と出会い、主人公は羽生に惹かれていく。
本作品の発刊後、ジョージ・マロニーは遺体で発見されたのだが、カメラは実際見つかっていない。
マロニーはエベレストの初登頂を果たしたのかどうか。
そのカメラのフィルムには、真実が写っていると言われている。
上記のような史実をミステリー要素として組み込み、上下巻のボリュームでもさらさらと読めていく。
発刊されたのは20年以上前だが、気になることは特にない。
羽生というキャラクターは実在した日本人の登山家をモデルにしたと言われている。
カトマンドゥの町の熱気、高山病、標高5000mより上の登山環境、ベースキャンプの様子など、緻密に描かれており、特に高山病の描写(幻覚、幻聴など)は読んでいるこちらまで苦しくなる。
「エヴェレスト南西壁冬季無酸素単独登攀」、人類が成し遂げたことのないことへ挑戦する羽生と、それをカメラで追う主人公。
最後に羽生が残した手記が心に刺さる。
「ありったけのこころでおもえ。想え。」
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2019年5月31日
- 読了日 : 2019年5月31日
- 本棚登録日 : 2015年9月15日
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