恣意的なはずのツチとフツの区別が恐怖と怒り、悲しみによって超えがたい溝となってゆく
主人公はツチの母親を持つが、物語の視点にツチ側への肩入れはない。ツチからフツへの暴力や、白人の傲慢さも描かれる。ルワンダで親族が虐殺されたことに衝撃を受け、正気を失った母親は、理不尽にも娘(主人公の妹)に暴力を振るう。後に息子と再会しても、フランス人との混血である息子を拒絶するかのように、殺されたツチである甥だと認識する。家族を人質に取られた主人公はついに人を殺すが、その時抱くのは特定の集団(ツチ)のアイデンティティではなく普遍的な恐怖と諦念...
主人公が抱き続けた普遍主義は本やベッドの中の塹壕に過ぎず、現実は分断でしかないのだろうか?
ここから作者の近作『ジャカランダ』への変容が気にかかる。あのラストは一種の風刺なのだろうか。それとも、悲しみと恐怖を拭い去ることは不可能で、分断に満ちた現実は変わらないのでいっそのこと楽しく受け入れるべきだという諦め?
文体、特に比喩表現が好みだと思ったら作者はセリーヌをよく読んでいたとのこと。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2025年4月16日
- 読了日 : 2025年4月16日
- 本棚登録日 : 2025年4月16日
みんなの感想をみる