怪談四代記 八雲のいたずら

著者 :
  • 講談社 (2014年7月24日発売)
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本棚登録 : 74
感想 : 8
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ラフカディオ・ハーン/小泉八雲は、間違いなく松江の文化英雄です。極めてナイーブな感性と徹底した思考力を持つこの作家は、明治の松江で暮らした一年足らずの間にこの街の自然と人の営みのディテールを魂に刻み込み、文学として世界に発信しました。彼の魂に濾し取られた「松江」は、現代の松江に非常に豊かな意味世界を与え続けています。

ハーンは東京へ転居し、子孫も長く首都圏に暮らしていました。しかしハーンの曾孫に当たる民俗学者・小泉凡先生が松江にIターンされ、島根県立大学で教鞭を執りながら、ハーンの開拓した意味世界を更に賦活させる様々な文化活動を続けておられます。そのひとつの核が「怪談」、ハーンの代表作であり松江の文化資源である物語群を活用した町おこしです。

本書はその現時点での集大成といえるでしょう。帯の惹句「110年ぶりの新刊」とは、今年がハーン没後110年であることに依ります。ハーン自身とその直系親族の歴史の中で起きた様々な綺譚を紹介しながら、そこに潜むtruth人間の真実を浮かび上がらせる──本書は間違いなくハーンの文学活動の正当な後継です。普通の文章から突然文字が太文字に変わる、それは「ここからが怪談だよ」という明瞭なシグナルで、読者は息を呑み心を構えて読み進めることになります。現実と地続きの怪異、私たちの日常に滑り込む不可思議。それは現実を見失わせる夢想ではなく、かえって現実を照らし返し、読者の現実を見る目を広げ深める役割を果たすのです。

本書は普通に読んでも抜群に面白いのですが、ハーンとその子孫にまつわる様々なエピソードを記述した資料性の高さは、ハーン文学愛好家にとって何物にも代え難い価値を持っています。妻セツや長男一雄のエッセイが今もなお第一級資料として輝くように、本書も百年スパンで読み継がれるでしょう(本気で言ってます)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学系
感想投稿日 : 2014年7月28日
読了日 : 2014年7月28日
本棚登録日 : 2014年7月28日

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