耽美というと昔はとにかく美しい世界、花や宝石や月や星、美男美女のめくるめく愛のようなものを想像していた。
それも間違いではないのだが、実際は美の概念というものを考えさせられる世界だ。
醜悪な姿や心やグロテスクなおどろおどろしい話、そんなものの内に美を見出すのはどういうことだろう。
考えてみると、それが人間の理性を超えた世界だからかもしれない。
倫理や秩序を超えた根源的な欲求、それを満たす陶酔や解放感を、美とあらわすほか言葉を知らないだけかもしれない。
人間の本質は秩序からかけ離れたところにあるのかもしれない。
この作品を読んでいて思い出したのが、映画「ブラックスワン」と「ドリアン・グレイの肖像」だった。
そのどちらかが好きな人ならば耽溺できる世界観だと思っている。
谷崎氏の文章の魅力はその放埓さと、絢爛な言葉遣いにある。
「刺青」は最後の一文がいつまでもからだの裏側で冴え渡っていて、視覚の一部を盗まれたような心地がした。
「秘密」もまたあやうくたまらなくエロティックで、極限までその期待とおそれとをふくらませてからの呆気なく残酷な幕引きが余韻を残す。
やはり表題作のこの2点が印象として強い、と感じた。
「少年」もまた無垢な残忍性から記憶に残る話ではあるが、好みから少しずれていたので、おそらく再読はしないと思う。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本作家
- 感想投稿日 : 2017年4月27日
- 読了日 : 2017年4月27日
- 本棚登録日 : 2017年4月27日
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