黒い長い髪の束縛、ぽたぽた赤を点じる椿など、詩的な表現が心地よかった。しかしそういった表現ができるにも関わらず、全体的に冗長。新聞連載だった事も影響してるのだろうか。
先生の手紙にあった事……親戚の金盗り、嫉妬で親友を追い詰め、死なれて女に縋る……は下世話な類のもの。ゴシップ的にも語れるし、しかもそっちの方が端的で理解しやすい。
けどもそういう時に起きるこころの動きをいちいち細やかに描き連ね、感情の発露がある限り自分にも身に覚えのあることだと意識させる。
先生と私はどちらも内向きにくどくどしすぎと感じたけれど、自分の心の中を逐一抽出してみたらそういうものかもしれない。ただ形になる前に霧散するだけで。この作品はそれに形を与えたが、他人のそういうものを読むのは、退屈でもある。
そこを、なんだか大層なもののようにベールをかけて提示する(これは登場人物のプライドと「漱石」という名の権威付けが手伝ってそうだが)。
心理考察案件の出来上がりである。
よく遺書が長いとネットでは話題になり、実際先生の手紙を作った人もいるようだ。教科書の定番だからこそ、そういう面白い試みも共有できるんだろう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
■日本文芸
- 感想投稿日 : 2018年1月2日
- 読了日 : 2018年1月2日
- 本棚登録日 : 2018年1月2日
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