天翔ける (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2021年2月25日発売)
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感想 : 9
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『天翔ける』の主要視点人物は松平春嶽(まつだいらしゅんがく)である。
「松平春嶽」?御本人は徳川御三卿の一つである田安家で生まれ育ったが、御一門と呼ばれた親藩の一つであった福井城を本拠地とする越前松平家に養子に入り、11歳で当主の座を受け継いでいる。越前松平家の当主としては、12代将軍徳川家慶の偏諱を賜って松平慶永と名乗った。が、<安政の大獄>で隠居ということになる等した経過から春嶽の号を名乗った時期が長く、その「松平春嶽」という名で知られている。幕末期に識見や人物に関して評価が高く声望が在った大名達が「賢侯」と呼ばれたが、松平春嶽はその「賢侯」に数えられる人物だ。
本作の冒頭は1863年のある日、福井を訪ねて来て「勝海舟の使い」と称した人物と松平春嶽とが初めて対面して話したというような場面から起こる。やがて、松平春嶽の辿った人生、<安政の大獄>やその他の様々な経過、更に明治維新への道程と、その中での活動や果たした役目というような物語が展開する。
島津斉彬が西郷吉之助を見出したのに対し、松平春嶽は橋本佐内を見出している。各々の主君の意を受けて活動した西郷吉之助と橋本佐内とは、より好い国を目指そうという同志であったが、互いに深い友情を共有していた。そして橋本佐内は刑死してしまい、西郷吉之助は奄美大島で暮らすというようなことの後に様々な経過を辿って行く。
島津斉彬と松平春嶽とは互いを認め合う、高く評価しているという間柄でもあった。島津斉彬は志半ばで急逝してしまう。松平春嶽は生き残った。揺れる時代を見詰め続け、様々な構想を抱きながら活動を続けた松平春嶽は何を思い、何を目指したのか?それが本作の物語であろう。更に、明治維新の経過の末に彼が何を観たのかという物語でもある。
作中で松平春嶽が目指したこととは?恐らく「私」を排して「公」を創るというようなことだったのかもしれない。そういう理想を追う様を「天翔ける」とする訳だ。
松平春嶽は幕末期を背景とする時代モノの作中人物として色々と登場はしていると思う。が、主人公に据えられている作品はやや珍しいかもしれない。が、「私」を排して「公」を創るというような、松平春嶽の思索と活動が追体験出来るような本作は、なかなかに好い…
「明治維新とは如何いうモノ?」という大きな問いに少しでも関心が在るなら、本作は有益であることは間違いないと思う。広く御薦めしたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 葉室 麟 作品
感想投稿日 : 2021年3月5日
読了日 : 2021年3月5日
本棚登録日 : 2021年3月5日

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