「やりがいのある仕事」という幻想 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2013年5月30日発売)
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感想 : 29
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 それなりに大学生していた時には就活に強い違和感を持っていた。スタジアムで行われた合同企業説明会で、真黒スーツの人間が会場中にひしめき合っているのを観戦席(休憩スペースに充てられていた)から見下ろした時は、何ともやりきれない気持ちになり、ムスカの例のセリフを心の中で思って平静を装った。

 結局通常コースの就活からはドロップアウトして数年経った。この本の内容はこれまで何となく自分で考えていたこととリンクする部分も多く、どこかほっとしたような気持ちになった。

「今一つ勢いというものを持てなくて悩んでいる人には、この本は少し役に立つ、と僕は思う。それは、「勢いをつける」という機能ではない。勢いが出なくても、「人間として基本的に大丈夫だ」ということ、そういう気持ちを持ってもらえるという機能を、この本に盛り込みたいと考えている。」(p15)

 人間の価値は、仕事の種類によって決まるわけではない。仕事ができるから、できないからと言ってそれが人間の優劣になるわけでもない。頭では理解しているが普段は忘れがちなことが、明快な言葉で綴られている。筆者の仕事観、仕事における作法、時々人生観、未来予想図などが盛り込まれた一冊。

 心に残ったことをいくつか書きとめる。
・時代を読むよりも、自分の未来、自分の将来像をイメージして仕事を考える。
・人間に「投資」するという考え方。
・常に勉強する。すぐに役に立たなくてもかまわない。
 「新しいものに興味を向けて、何か自分にとって役に立つものはないか、と探す」。

 日本・世界全体の社会の将来について
・人間の仕事量は減ってゆく
・上昇傾向にある分野は、いずれ大多数の労働力が不要になる
・娯楽関連の仕事は増えているが、省エネの観点から制限される可能性がある
・メディアよりコンテンツ、メジャからマイナ、ジェネラルからスペシャルへ


 一歩引いて社会を眺めるようなドライな内容が多いと感じたが、筋は通っているし納得できる。ああ確かに、「人間として基本的に大丈夫だ」、とうなずいてしまう。生活していくために必要な金、その金を得る手段で最も簡単なのが仕事することなのだ。終身雇用制なんてとっくに幻なのだから、自分が生きたいように生きられるよう、将来ありたい自分に向かって進めるよう、働くのだ。
 企業戦士としてバリバリ働いて、人生を仕事にささげてきたような人とは、そりが合わないかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年11月6日
読了日 : 2013年11月2日
本棚登録日 : 2013年11月2日

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