いとまの雪 新説忠臣蔵・ひとりの家老の生涯 (下)

  • KADOKAWA (2020年12月18日発売)
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5

一気に読んでしまった。読まされた。
ただ、吉良上野介を討つだけではなく、綱吉と吉保にも意趣を返すという圧巻の仇討ちとして描かれる忠臣蔵。『力のみを以て治めれば必ず乱を生む』と書かれた上巻の言葉が現実になったのが、忠臣蔵という解釈。
『我らが成すべきは、吉良上野介を討つことだけではない。我が殿に辱めを与える裁定を下した幕閣、大老、将軍を討つことだと考えて頂きたい。殿のご無念がどれほどか、我ら家臣が、赤穂の侍が受けた屈辱がどれほどのものかを思い知らせるのです』
上巻で丁寧に描かれた伏線をもとに、忠義と武士道に徹しきる大石内蔵助が、ぶれなく一貫した人格として描かれていた。『古来、天命あり』という言葉に対し上巻で葛藤していた内蔵助が、天命を知り動いたのが下巻の内容とも言える。急進的に仇討ちに向かう者を諌め、お家の再興のための手を打ち、お大尽遊びをする中で離れゆく人を許し見極め、真に命をかけられる志士を見極めて実行に移すところは、非常に優れたリーダーシップを伺わせる。
そして、48番目の志士の九郎兵衛が、裏から内蔵助を支えたというプロットで、物語がリアリティを持つ。この九郎兵衛が、内蔵助の盟友として、武士として良い味を出している。名を求めず、裏方に徹して、最後に笑いながら一人切腹する九郎兵衛は、もう一人の主人公とも言える。
用意周到に、忠義の本懐を遂げる男達。『君恥ずかしめられれば、臣死す』潔く、潔すぎるその散り方が、美しくて儚い。死ぬことを厭わず、命をかけて本懐を遂げるその姿に、不条理に逆らい、驕り高ぶる者を許さぬという意地と誇りを感じる。そうして散りゆく男たちが儚過ぎる。どの様にすれば、その様に生きられるのか。とてもではないが、そんなに潔く生きることはできない。だからこそ、その生き様に憧れ、その何十分の一かは、自分も潔く生きたいと思う。
『生きるは束の間、死ぬはしばしのいとま。』
この言葉の意味がまだ自分には腹落ち出来ていないが、この言葉の意味が腹落ちした時には、自分も少しは潔く生きられるのかもしれない。作者が何故この物語を描いたのか、何を伝えたかったのか、まだ十分には消化できていない自分がいる。いつかは、自分も天命を知り、実感を持ってこの物語とこの言葉を理解したい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代 歴史小説
感想投稿日 : 2021年1月23日
読了日 : 2021年1月23日
本棚登録日 : 2021年1月23日

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