岡本かの子 (ちくま日本文学)

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本棚登録 : 129
レビュー : 12
著者 :
さーおりーさん  未設定  読み終わった 

中央アジアから日本への帰路につき、サンクトペテルブルクにてトランジットの際、長旅に疲れた身体で久々にちゃんと本を読もうかと岡本かの子の短編集を開いた。すると1話目の1行目に
「京都の嵐山の前を流れる大堰川には、雅びた渡月橋が架かっています。」
ときた。
心底驚いた。私の自宅から徒歩5分の風景の描写が、ちょうど旅を終えようとする私の身をも心をも故国へと引きつけた。岡本かの子が私の帰路を導くかのよう。こんな場所でこんな文章に出逢うなんて、きっと何か私と彼女を結びつける偶然ではない大きな力が働いているのだと思った。こんな表現は大げさすぎるようだが、そもそも岡本かの子(そして太郎)ほど大仰な人はいないのだから私のこのくらいは許されるだろう。

上にあげた「鯉魚」は良い。
「混沌未分」
「鮨」
「老妓抄」
そして一連の 太郎への手紙。
小説はどれも、言葉にならない微妙な思いを言語で確かに記述する力に驚かされる。初めて「鮨」や「老妓抄」を読んだときと同じ箇所、同じ文章で私の胸は震えた。私は、かの子の文章は外国語に翻訳できないのではないかと思う。こんな繊細微妙な感情を他の言語に移すすべが全くわからない。
太郎の手紙はいつ見ても微笑ましい。どう見ても母親のものではない、ありったけの愛。これを全面的に受け止める太郎の方もやはり相当な器の持ち主なのだと思わされる。

レビュー投稿日
2019年6月25日
読了日
2019年6月25日
本棚登録日
2019年6月25日
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