ウォーター&ビスケットのテーマ コンビニを巡る戦争 (1) (角川スニーカー文庫)

  • KADOKAWA (2017年9月1日発売)
3.93
  • (8)
  • (11)
  • (7)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 120
感想 : 8
4

箱庭世界×異能力という作者お得意の限定的シチュエーションで繰り広げられる陣取りサバイバル。異能力バトルで軍師ポジションという主人公の立ち位置も面白いが、誰よりも臆病な主人公が選んだ能力がこれほど戦闘に役に立たないというのも珍しい。Q&Aという運営に質問することができ、確実な解答を引き出すことのできる能力、というのは実に河野裕らしく、運命とルールはこの世界では同義である。ルールに抗いながら枠外の解決法を探るというのが基本的な河野裕作品のスタンスなのだが、今作は他の作品と比べてより直接的で、戦闘描写も若干多めであるが、それでもこの能力を選び取るというのはある種のこだわりなのだろう。中盤の身体強化+シールド展開という蟻踏みアズチがモロに戦闘タイプのキャラなので対比としても抜群だった。死に様にショックを受けるシーンも非常に素晴らしく、バトロワものとしては王道シチュながらも「いや、消えろよ。ゲームみたいな世界なんだろ。死体なんか、ゲームみたいに消えろよ」という台詞は主人公の浮いた感覚を端的に表している名シーンだと思った。

天才ではあるが臆病に近い狂気という主人公造形も、今までの平熱系主人公とは違った趣で面白く、ヒロインとの甘々ではないドライかつ強固な信頼関係という距離感も良い。総じて今までの作者らしさを失わないままで、新たな境地に踏み出している作品であるといえよう。根底に流れるリリシズムも相変わらず魅力的。トーマが実は女の子という三角関係は実にらしくて笑ってしまったが、引きとしては抜群である。新境地も垣間見えたため、次作も楽しみなシリーズである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ラノベ
感想投稿日 : 2019年5月29日
読了日 : 2017年9月2日
本棚登録日 : 2019年5月29日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする